第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
堕転すれば、あのルフは消える。あいつもきっと変わる。
やかましくも、心地良いあの場所が消えてしまうと思うと、嫌悪感さえ覚える。
この感情が何なのかわからないが、あいつが今のままじゃなくなるのは、どうにも許せなく感じるのだ。
黒く染まったあいつが、親父どもに利用される様など絶対に見たくはない。
あれを利用していいのは、自分だけだ。
側にあいつがいなくなるのならば、堕転などさせずに側に置いておく方がましだ。
だから、あいつを親父どもから遠ざけようとしているというのに、目を離せばあいつは勝手に巻き込まれるような状況下に入っていってしまう。
一度信用してしまうと、あいつは警戒心とやらが抜ける。
連絡事項とはいえ、あいつも親父どもと話す機会がある。目を離していたら、あいつは簡単に親父どもの毒牙に掛かるだろう。
素直な分、染まるのは恐らくあっという間だ。
紅炎が戦争でも始めてくれて、いったんこの宮廷から離れてくれた方が、まだ安全そうだ。
そこまで考えて、ジュダルは馬鹿げた考えに笑いそうになった。
普段、さんざん人を堕転へ導いておきながら、あいつが染まることには懸念を感じているなんて、滑稽に思えたからだ。
薄暗い部屋を出て、明るい日差しに晒されると、ようやく気分が晴れていく気がした。
あいつは今、何をしているだろうか。
待っていろと言ったのだから、あの場所から移動していたら、許してはやらない。
今度はどんな事でからかってやろうかと考えを巡らせて、ジュダルは楽しそうな笑みを浮かべながら、ハイリアの元へと駆けだした。