第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
溢れる真っ黒なルフを彷彿とさせながら、もがく男の体は膨張し始めていて、今にも弾けて暴発しそうな勢いだった。
それを覆面の男たちが魔法陣で囲みどうにか抑えている。
こちらの姿を見つけるなり、親父どもは安堵したような声を上げた。
「おお、『マギ』よ。お待ちしておりました」
「失敗作のくせに、やたらと生命力はあるようで……」
「力をお貸し下さい。我らではもう抑えられませぬ」
黒いジンの実験とやらのせいで、時折こうやって呼び出されることには、かなりうんざりしていた。
被験体が暴走するたびに、いちいち処分を頼まれるのは迷惑な話だ。
「わかったから、少しどいてろよ」
化け物が暴れている牢屋の中に入ると、杖を取り出した。
耳障りなうなり声を上げている化け物に向かって、迷うことなく鋭い氷塊を一つ作り出すと、中心に向かって打ち込んだ。
阻まれる間もなく胸に深々と突き刺さった氷塊は、化け物を壁に突き刺した。
大きな雄叫びを上げたそいつは、一度ばたつきをみせたが、すぐに動かなくなる。
胸に穴を開けて壁に突き刺さったそいつの膨張は止まり、中心から凍り始める。
同時に男の体は、みるみる石のように乾き黒ずんで、割れてぼろぼろと身を崩していった。
暴走した奴はいつもこうだ。最後まで醜い姿をさらすから気分が悪い。
ごろごろと転がってきた黒い腕が、足下にぶつかってきて赤黒い痕をつけた。
「ご苦労おかけしました、『マギ』よ」
覆面の男の一人が駆け寄り、足下についた血痕を急いでぬぐっていた。
「これでいいだろ? いい加減、俺は戻らせてもらうぜ」
面白くもない牢獄から足早に出ていくと、一人の男が追いかけてきた。
最近、つきまとってくる奴の一人だった。
いつまでもついてくるのが鬱陶しくてイライラした。