第13章 鬼と豆まき《弐》
「…問題か…確かに問題かもしれないな」
杏寿郎の視線もまた、後を追うようにして屋敷内へと向く。
「しかし蛍がその身に陽光を受けたのは、陽も沈む間近だった。微弱な陽の光なら、多少とも鬼は生き永らえることは立証済みだ。故に影鬼が陽光の影響を受けないという、確証はない」
「だったら試してみるしか」
「蛍の体を、陽に曝して炙れということか?」
顔は屋敷へと向けたまま。僅かに顎を引いた杏寿郎の右目が、流し目に天元を見上げる。
「命を落とさない程度に?」
ちりちりと肌を焼くような威圧。
静かな声で発せられる重みに、天元もまた威圧を見返す。
一分か、一秒か。
互いの気迫のみで交した思いを先に汲み取ったのは天元だった。
はぁと大きな溜息をついて、肩を竦める。
「まっ、それで蛍が死んだら洒落になんねぇしな。無理難題か」
「無論だ!」
視線を外していつもの砕けた表情を見せる天元に、よく通る声で応える杏寿郎もいつも通り。
二人の間にはもう焼け付くような威圧など消えていた。
「それでは失礼します」
「お邪魔しました」
「邪魔じゃなく失礼だ、言葉遣い間違えんじゃねェ」
「し、失礼しました…」
それから数十分と経たないうちに、蛍達の耀哉への報告会は終わった。
屋敷の奥の襖から出てくる蛍や実弥達の姿に、杏寿郎と天元も縁側まで歩み寄る。
「蛍! 終わったか!」
「杏寿郎。…と、天元?」
「よう。もう体調はいいのか?」
「うん、まぁ。鬼だし」
「俺はまだ寝ていたいですけどね…」
「ごめんね時透くん。私の都合で無理矢理…」
「いいよ、別に。お館様の命令なら従うし」
鬼殺隊にとって特別な祭事となる節分を終えたのは、つい昨日。
それから直接しのぶの蝶屋敷に赴いた蛍達は診察と治療を受けていたが、三人共特に問題は見られなかった。
影鬼の中で気を失っていた無一郎は、飲み込まれた後の記憶はほとんどない。
ただその時のことを思い出そうとすれば、何か断片的な記憶を感じて頭が僅かに痛む。
それがなんなのかはわからない。
しかし忘れてはいけないということだけは、自然と理解していた。