第13章 鬼と豆まき《弐》
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「柚霧、ねぇ…」
「何か言いたげだな!」
「そりゃあな。気にもなるだろ。あの影の塊ん中が、蛍の記憶の巣だったなんてよ」
「うむ! よもや蛍に二つ名があったとは!」
「いやそこじゃなくて」
「む? 違うのか!」
「いや、ウン。お前にゃ大事だったな。俺が間違ってたわ。ウン」
陽もまだ高い、産屋敷邸の広い庭。
赤と白の斑の鯉が泳ぐ池の隣で、塀を背に腕組みをし立っているのは煉獄杏寿郎。
その塀の上に胡座を掻いて座っているのは宇髄天元。
彼らはこの屋敷の主に呼ばれた訳ではない。
ただ待つべき相手が、屋敷の中にいた。
「しかし宇髄まで待たずとも。お館様に用があるなら、今日は蛍との話で」
「知ってんよ。節分明け早々、不死川達も呼ばれたってな」
二人が待っているのは屋敷の主ではない。
その主に呼ばれた蛍だった。
節分終了間近に起こった、蛍の異能の暴走。
その詳細を誰より知っているのは、取り込まれた無一郎と自ら飛び込んだ実弥だけだ。
故にその二人を混じえて、屋敷の中では耀哉への報告が行われている。
「俺も聞きたかったわ、その話」
「いずれお館様から情報は頂けるだろう。何も問題ない!」
「本気でそう思ってるのか? 煉獄よ」
「?」
見開いた主張の強い瞳は屋敷を見つめたままだったが、初めてその目が後ろの塀へと向いた。
見上げ視線で問いかけてくる杏寿郎に、胡座を掻いた膝に頬杖を付きながら、天元は明るい空を見上げた。
「あの異能は、太陽の下でも消滅しなかった。蛍自身は太陽光の影響を受けてたが、あの影は受けてない」
「……」
「顔を燃やした蛍を食らい飲み込む様は、俺にはまるで宿主を守っているように見えた」
下がる天元の鋭い切れ目が、杏寿郎の視線と重なる。
「太陽光は鬼を滅する上で絶対的存在だ。それを覆されることが、どういうことか」
「……」
「大問題だろ。俺達にとって」
やがて鋭い切れ目は、屋敷の奥へと向く。
未だそこから人が出てくる気配はない。
「そして恐らく鬼側にとっても」