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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



❉  ❉  ❉

「柚霧、ねぇ…」

「何か言いたげだな!」

「そりゃあな。気にもなるだろ。あの影の塊ん中が、蛍の記憶の巣だったなんてよ」

「うむ! よもや蛍に二つ名があったとは!」

「いやそこじゃなくて」

「む? 違うのか!」

「いや、ウン。お前にゃ大事だったな。俺が間違ってたわ。ウン」


 陽もまだ高い、産屋敷邸の広い庭。
 赤と白の斑の鯉が泳ぐ池の隣で、塀を背に腕組みをし立っているのは煉獄杏寿郎。
 その塀の上に胡座を掻いて座っているのは宇髄天元。

 彼らはこの屋敷の主に呼ばれた訳ではない。
 ただ待つべき相手が、屋敷の中にいた。


「しかし宇髄まで待たずとも。お館様に用があるなら、今日は蛍との話で」

「知ってんよ。節分明け早々、不死川達も呼ばれたってな」


 二人が待っているのは屋敷の主ではない。
 その主に呼ばれた蛍だった。

 節分終了間近に起こった、蛍の異能の暴走。
 その詳細を誰より知っているのは、取り込まれた無一郎と自ら飛び込んだ実弥だけだ。
 故にその二人を混じえて、屋敷の中では耀哉への報告が行われている。


「俺も聞きたかったわ、その話」

「いずれお館様から情報は頂けるだろう。何も問題ない!」

「本気でそう思ってるのか? 煉獄よ」

「?」


 見開いた主張の強い瞳は屋敷を見つめたままだったが、初めてその目が後ろの塀へと向いた。
 見上げ視線で問いかけてくる杏寿郎に、胡座を掻いた膝に頬杖を付きながら、天元は明るい空を見上げた。


「あの異能は、太陽の下でも消滅しなかった。蛍自身は太陽光の影響を受けてたが、あの影は受けてない」

「……」

「顔を燃やした蛍を食らい飲み込む様は、俺にはまるで宿主を守っているように見えた」


 下がる天元の鋭い切れ目が、杏寿郎の視線と重なる。


「太陽光は鬼を滅する上で絶対的存在だ。それを覆されることが、どういうことか」

「……」

「大問題だろ。俺達にとって」


 やがて鋭い切れ目は、屋敷の奥へと向く。
 未だそこから人が出てくる気配はない。


「そして恐らく鬼側にとっても」

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