第13章 鬼と豆まき《弐》
「ムムム…!」
幼子のようにぎゅうぎゅうと蛍に抱きついて、自分にも抱擁させろと急かしてくる。
愛らしい少女の姿につい頬が緩んだが、と同時にはっと蛍の顔が真顔に変わる。
(げっ)
目の前のことに意識が向いていて、気付くのが遅れた。
埋めていた顔を杏寿郎の胸から離して見れば、こちらを見てくる無数の目線。
無一郎の安否を気にかけていたはずの柱全員が、こちらを見ているではないか。
「なんだその対応は…師範らしからんぞ煉獄…」
「やだ、どうしよう…きゅんとする…♡」
「ふふふ。煉獄さんもあんな顔をするんですねぇ」
「煉獄も師として心配していたのだろう。鬼子を真に継子として迎え入れている証だ…」
「…そーいうもんかね」
唯一、真相を知る天元だけが白々しく二人を見ていた。
ありありと彼の目が語るは「黙っとけつったお前が盛大に披露してんじゃねーよ」というものだろう阿吽の関係である杏寿郎の胸にドスリと無言の突っ込みが突き刺さる。
「こ…っこれは! 煉獄家に代々伝わる継子を出迎える方法でだな…!」
「ハイハイわかったわかった(それ以上下手なこと言っても墓穴掘るだけだやめとけ)」
「む、むう…」
「彩千代」
「…義勇さん」
「無事であっても、一度胡蝶に診て貰った方がいい」
そこへ静かに入ってきたのは、禰豆子の木箱を背負い直していた義勇。
今はその場の流れを断ち切る彼の唐突さに、助かったと杏寿郎も頷いた。
「そうだな。あれだけの異能を放出したんだ、疲労も強いだろう。診察を受けた後は休むといい」
「不死川もだ」
「あ? 俺は別に問題ねェよ。これは自分でやっただけだ」
応急処置の為に手首に持っていた包帯を巻いていた実弥が、素っ気なく義勇の提案を蹴る。
「時透の方が優先すべきだろ、俺に構うんじゃねェ」
「そうはいかない。血鬼術に飲まれたんだ、後々体に支障をきたす可能性も…」
「ないつってんだろォが。あれは鬼の異能でも、人を殺す為に生んだもんじゃねェ。テメェも見てただろ」
「だとしても、全く無いとは言い切れない。念の為に」
「ごちゃごちゃ煩ェなァ…ないもんはないんだよ!」
義勇相手だと沸点の低い実弥が、苛立ち混じりに反発する。