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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



「大丈夫か?」

「あ、うん。だいじょう──」


 腕の中で見上げた顔は、思いの他近かった。
 そこに驚いて言葉が詰まった訳ではない。


「本当に、大丈夫なのか」


 念を押して問いかけてくる杏寿郎の顔には、痛い程の眼力や、いつもの覇気が見当たらない。
 心配そうに伺ってくる表情に、珍しいものを見たと蛍は目を瞬いた。


「だ、大丈夫。迷惑かけてごめ」

「そういうことじゃない」


 力の入らない体は杏寿郎に凭れたまま。
 鬼らしくもない弱い体を抱きしめて、杏寿郎は大きく息をついた。


「無事なら、いいんだ。よかった…」

「きょ、じゅ」


 その胸に埋もれるくらいの抱擁を受けて、思い出す。
 初めて想いが通じ合った日も、こんなふうに強く抱きしめられた。

 あの時は目の前にいる蛍が夢現のようだと、杏寿郎は不安を口にしていた。
 今もまた、同じに不安を抱いているのなら。


「……」


 そっと広い背中に手を回す。
 深呼吸をすれば、温かい木漏れ日の匂いがした。


(杏寿郎の、匂いだ)


 ほっと息をつく。
 安心できる腕の中で、最後まで残っていた蛍の体の強張りが抜けた。


「…私は、私のままだから」


 応えるように、抱きしめ返してくる細い腕。
 もそもそと服に埋もれた口から伝わる、小さな主張。
 一つ一つ、蛍を成すものと腕の中の温もりを実感すると、杏寿郎もようやく力を抜いた。


「陽光の影響は? 顔は、平気なのか」

「うん。不死川の血を飲ませてもらったから…」

「不死川の?」

「飢餓症状が少し前からあっ、て」


 互いの温もりに包まれたまま、ぽそぽそと現状を伝える。
 その言葉が途切れたのは、ぼふりと蛍の脇腹に感じた衝撃だった。


「ムゥ!」


 見れば蛍と杏寿郎の体の間に、ぐいぐいと己の体を割り込ませて主張してくる少女が一人。
 義勇の背中から抜け出した禰豆子だ。

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