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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



「俺をお前の姉貴と一緒にすんじゃねェ…! 俺の家族は玄弥だけだ、俺はあいつの兄だ! だから俺はこんな所で死ねねェんだよ…!」


 ざわざわと絡み付いていた無数の手が、蛍の胴体まで蝕んでいく。
 下半身を黒い影に覆われながら、蛍は実弥へと声を震わせた。


「じゃあ…死なない、でよ」


 項垂れていた手が、弱々しくも実弥の服の裾を掴む。


「玄弥くんを残して、死のうとしないで」

「だから死ねねェつってんだろうがァ! 話聞い」

「不死川の言う、玄弥くんの幸せって?」

「あ?」

「鬼のいない平和な世で暮らせたら、それは幸せなの?」

「はァ? なに当たり前のことを…」

「そこに不死川がいなくても?」

「……」

「不死川は玄弥くんのことを、よく知ってるかもしれないけど…玄弥くんの何が幸せか決めるのは、不死川じゃ、ないよ」


 たとえそれが家族であったとしても。
 姉の望んだものは、蛍の望みとは違っていた。


「もし…玄弥くんと不死川が、逆だったら? 玄弥くんが不死川の為に体を張って、幸せを望んで、血を流していたら? そこで手に入れた平穏は、不死川の幸せになるの?」


 考えるまでもなかった。
 弟の犠牲を足場にして作られた幸せなど、誰が望もうか。


「私は、姉さんがいればよかった」


 もし、玄弥も同じだとしたら。


「それだけでよかった」


 昔から後ろをよくついて歩く弟だった。
 それは実弥より背が高く成長した今も、変わってはいなかった。
 実弥を追って、追いかけて、鬼殺隊にまで入ったのだ。


「柚霧のままでも、よかったんだよ…」


 無だった蛍の瞳に感情が芽生える。
 今にも泣き出しそうな瞳を、強く伏せた。
 これ以上感情の吐露をさせまいとするかのように。


「…………わァったよ」


 実弥を見ながら見ていない。
 亡き姉ばかりを見る蛍の目に、苛立った。
 しかし今度は、震える程の感情を殺し押し込める蛍の姿が、実弥には弟の玄弥と重なって見えた。


「…お前が柚霧を認めるなら、俺も今の玄弥を認める」


 荒げていた声を沈めて語りかける。
 昔、弟にそうして話しかけていたように。


「だから俺を、玄弥の処に帰せ」

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