第13章 鬼と豆まき《弐》
「玄弥くん、私が不死川と会ったことがあること知ると…不死川の様子を、訊いてきたの。弟の玄弥くんの方が、兄のこと…知ってるはずなのに」
「……」
「それって、不死川の知らない時を過ごした、玄弥くんが…いたってこと、でしょ」
はっきりと説明された訳ではなかったが、なんとなしに蛍も理解していた。
実弥が鬼殺隊に入隊してからは恐らく一度も会えていなかったのだろう。
その間に玄弥は一人で生き抜く術を身に付け、一人で鬼殺隊に入る術を見つけた。
一人で、誰に教わるでもなく。
だから鬼を喰らうという禁忌を止める者もいなかった。
「私は、わかるよ…玄弥くんの、心に空いている穴…それを埋められるのは、不死川しか、いない」
どんなに自分を否定されても、玄弥は実弥に抗ったりはしなかった。
実弥に噛み付いた蛍にも、止めろと言う始末。
それだけ玄弥の兄を慕う心は大きい。
それだけ兄を思う心は強い。
その心を蛍は知っていた。
「だから…耳を、傾けて、よ」
『わた、しは…もう…これ以上、は……だから…お願い…』
「向けられた声を、聞いてよ」
『もう…楽に、なりたい…生き、苦しい、の』
「死にたいなんて…自分を餌にしろ、なんて…」
『我儘で…ごめん、ね…』
「言わ、ないで」
ぎり、と実弥の歯が唇を噛み締める。
「言っただろうが、現実を睨めってよォ!」
見上げてくる蛍の目が、実弥を見ながら見ていないことはすぐにわかった。
今は亡き亡霊に囚われたままだ。
「お前の姉貴は死んだッ!!」
びくりと、掴まれていた細い腕が震えた。