第13章 鬼と豆まき《弐》
「阿呆か。ンな瀕死の顔で凄んだって怖くもなんともねェんだよ」
予想していたことだと、実弥の反応は冷静だった。
「お前にくれてやるって言ってんだ、大人しく飲め」
なんの為にわざわざ血を流したのか。
舌打ち混じりに差し出した腕から、蛍は顔を逸らす。
「い、や…飲みたく、ない…っ」
「ァあ? 冨岡や煉獄の血は飲んだってのにかァ」
「っ不死川のは、飲みたく、ない…」
「あ"?」
しかし何かと鬼や義勇関連では短気なところがある男。
びきりと、今度は太い血管が浮く。
「ほおォ…なら無理矢理飲ませろってか。いいぜェそういうの嫌いじゃねェ」
口角は上がっているが、ぎらぎらと血走る目は笑っていない。
ぼきりと指の関節を鳴らすと、顔を逸らし続ける蛍の胸倉を鷲掴んだ。
「また口に突っ込まれたいらしいなァ」
「いや、だ…ッ」
「餓鬼みたいな駄々捏ねるんじゃねェよ!」
明らかに己の異能を制御できていないからこそ、蛍にはいち早く回復してもらわなければならない。
実弥の稀血は通常の稀血以上の効果を持つ。
匂いを嗅ぐだけで鬼を酩酊させる効果があるが、飲み込み体内に取り込めば鬼としての本能を刺激することができる。
結果、蛍の鬼としての再生力は高まるだろう。
現に義勇の血を飲んですぐに体を再生させた事例がある。
それは蛍もわかっているはずだ。
なのに頑なに拒否する姿に、苛々と実弥は目尻をつり上げた。
「大体お前が時透を取り込まなきゃ、此処まで追ってなんか来なかったんだよ!」
「ッ」
「誰の所為でこんな面倒なことしてるんだと…!」
苛立ちのまま責め立てた。
掴んだ胸倉を引き寄せ睨み付けた先には、体を硬くして耐える蛍の姿。
びくりと四肢を縮ませ、何かに耐えるように歯を食い縛っている。
それは顔の火傷の痛みではない。
目の前で嗅覚を、五感を刺激してくる、実弥の稀血に対してだ。