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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第13章 鬼と豆まき《弐》



「それじゃあ埋めデッ」


 実弥の思考を遮ったのは、ひしゃげたような音と奇妙な声だった。
 土を埋めようとしていた男の動きが止まる。


「? どうした」


 屈んで柚霧の姿を見ていた男達が振り返る。
 裏戸から出た月房屋の裏通りは、高い草木が生えている無法地帯。

 その微かに開けた場所に人影が一つ。
 月明かりを背に立つ、見知らぬ男がいた。

 男の顔は背後の月明かりが逆光となり見えない。
 しかしその手で握り潰したものははっきりと見えた。

 人間の顔の上半分。
 握り潰した肉片はでろりと目玉が飛び出している。


「…臭い血だ」


 静かに告げる声には、冷たい響きだけが残る。


「ひ…ッ」

「な…ッ!」


 土を埋めようとしていた男は、鋤を手にしたまま固まっている。
 その顎から上が──ない。

 ぶしゅうと大きな血飛沫を上げて倒れる男に、残った二人の男達は慌てふためいた。

 塗り潰されたように影しか見えない男の顔に、真っ赤な目が二つ浮き上がる。
 紅梅色(こうばいしょく)の切れ目だけがはっきりと見えた。


「ひ、人殺し…!」

「人殺し? 愚かな。貴様らがそれを言うのか?」


 血のような瞳がぎょろりと剥くと、縦に割れ込んだ。


「貴様らの血は嗅ぐに耐えん。口にする価値もない」

「何を──ゲっ!?」

「全て雑草の養分にしてくれよう」


 男が血に塗れた手を翳(かざ)せば、人の腕より明らかに伸びたそれが震える男の頸を貫いた。
 貫く勢いのまま地面に薙ぎ倒し、ぶちりと頸を胴から引き千切る。


「ひっ…ば、化け物…!」


 ぐねぐねと奇妙にうねる腕は、明らかに人のものではない。
 顔を真っ青にして転げるように逃げ出した残りの男に、再び静かに奇妙な腕を掲げる。


「……ぅ…」


 ぴたりと動きが止まる。
 微かだが聴こえた。
 紅梅色の目が、土穴に転がされた女を見つけた。


「ほう。まだ息があるのか」


 異型へと変貌していた手が忽ちに人のそれと同じ形へと変わる。
 逃げ去った男への興味は既に無く。虫の息である柚霧の傍へと下りると、男は充満する血を嗅いだ。


「お前の血は臭くないな」


 微かに息を繋ぐ喉元を見つめて、ゆっくりと開いた口には。


「中々に美味そうだ」


 鋭く光る、犬歯が二つ。

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