第13章 鬼と豆まき《弐》
ようやく男達の拘束が外される。
それでも身動きらしい身動きをしない柚霧に、安堵の空気が生まれる。
その場の空気は異様だった。
「善は急げだ。こいつ、確か明日明後日には帰省する予定だったろ。その前に菊葉を殺る」
「どうせ毒で死ぬ運命だろ? わざわざ叩きに行かなくたって…」
「馬鹿か。その毒をあれだけ喰らって菊葉はまだ生きてんだぞ。直接殺らねぇと」
「なら二手に別れるか。菊葉を殺す者と、柚霧を処分する者と」
「しゃあねぇな…」
まるで夕飯の役割分担をするかのように、淡々と物事を進めていく男達。
皆一様にぎらついた目をしており、目の前の虫の息の柚霧を見ても顔色一つ変えない。
やがて複数の男達は月房屋を出ていき、残された三人の男が柚霧の処分に当たった。
「おい、無駄な血を零させるなよ」
「ん? なんだァこりゃ。おはぎ?」
「そりゃ柚霧が持ってたもんじゃねぇか。こいつの痕跡は残せねぇ、一緒に埋めちまおう」
二人の男が柚霧を担ぎ裏口から建物の外へ出る。
途中で見つけた廊下に落ちていたおはぎもまた、男達の手で塵のように扱われた。
「何処に埋める?」
「何処でもいいだろ」
「あいつは何処に埋めたっけか」
「ああ、確か白百合を植えた辺りじゃ…」
奇妙な話を進める男達の手で、草むらの中へと寝かされる。
顔を潰された柚霧の胸の上に、放られたおはぎがぼとりと落ちた。
「しかし女は馬鹿だよなァ。下手に抵抗しなけりゃ、此処で十分なおまんま食って生きていけたってのによ」
「小紫、だったっけか。あいつもいきなり足を洗うなんて言い出さなけりゃ…」
「腕の立つ女郎は勝手に自分の未来を決めようとするからな。タチが悪ィ」
「……そういうことかよ…」
鍬(くわ)で穴を掘り進める男達に、実弥は届かぬ怒りを滲ませた。
柚霧が買い出しに行った先の店長が、口にしていた一人だけ月房屋を出ていけた女郎。
彼女は足を洗ってなどいなかった。
男達の手によって、その命を潰されていたのだ。
人ならざる行為はこれが初めてではなかった。