第13章 鬼と豆まき《弐》
「どうするよ…こいつが警察にでも全部吐きやがったら…ッ」
「し、証拠なんてねぇだろ?」
「調べりゃ毒を購入した足が付くかもしれねぇ。絶対に無事だと言い切れるか?」
「うぐ…! ううむー!」
「煩ェ!」
焦燥感に駆られる男達の頭は、半ば混乱中だ。
どうにか冷静さを取り戻そうとするものの、目の前で暴れる恐怖の大元に気が散って仕方がない。
怒り任せの男の拳が、無防備な柚霧の腹を打つ。
途端に嘔吐感が競り上がりおはぎしか溶かしていない胃液を吐いた。
「ッぇ…!」
しかし口は押し込まれた手拭いで堰き止められている。
出口を見つけられない嘔吐物は再び食道を逆流し、柚霧は目を白黒させながら嗚咽を十分に漏らすこともできずに顔面蒼白に身を震わせた。
「…おい」
「あ?」
そんな柚霧を見下ろしていた、腹を打った男の目の色が変わる。
「しっかりコイツを押さえておけよ」
「は?」
「おい、まさか…」
男達の中でも主導権を持つ、殊更屈強な体を持った大男。
そのギラギラと飢えた獣のようにぎらつく両眼に、周りの男達は身を竦ませた。
「口を割らせねぇ方法なんて一つだろ」
淡々と低い声で告げる男に、周りは誰一人否定も肯定もしなかった。
しかし無言で見守る様は、肯定と同じこと。
逆流する嘔吐物に息絶え絶えに霞めていた柚霧の視界に、影がかかる。
「…っ?」
見えたのは、油のようにぎらつく両眼を見開き、握った拳を振り上げた男の影。
その岩のように硬い拳は、柚霧の顔の前に掲げられていた。
(…まさか)
さぁ、と血の気の引く音が聞こえるようだった。
嫌な感覚が、鋭い刃物のように肌に突き刺さる。
第六感とでも言おうか。
(まさか、まさか)
必死に残っている力で男の股から抜け出そうとするが、周りから押さえ付ける手が脱出を許さない。
「ッ…!」
「この…ッ」
「急に抵抗が強くなったぞこいつ…!」
「いつ死んでも可笑しくない浮世で、生き残ってきた奴だ。そういう直感はあるんだろうよ」
淡々と告げる男の口角がつり上がる。
「逃げ出せるだけの力がなきゃ、どうしようもねぇがな」