第13章 鬼と豆まき《弐》
「辞められる訳ねぇだろ、お前にゃ借金があるんだ!」
「知るもんか。あんた達が姉さんにしたことを考えれば、お金を払うのはそっちの方だ」
「柚霧!」
「それは私の名前じゃない!」
急ぎ足で廊下を後にしようとする柚霧に、男達は狼狽えた。
普段なら強い言葉の一つで大人しく従う柚霧が、全身で拒否反応を示す。
腕を掴もうとした男の手を振り払い、吐き捨てるように告げた。
もう十分過ぎる程の金は与えた。
なのに返されたのは恩ではなく仇だった。
寧ろ金を要求すべきは毒を盛られた姉の方だ。
何故未だに、こんな男達の言うことを聞かねばならないのか。
「待て!」
「考え直せ、柚霧…ッ」
(煩い。煩い煩い煩い煩い!)
その声を耳にすることすら鳥肌が立つ。
後を追い掛ける男達の声を振り払うように、月房屋の玄関へと向かう。
「待てって言ってんだろ…!」
「そいつを押さえろ!」
「!?」
がつりと、真後ろから伸びた大きな手が柚霧の口を鷲掴んだのはその時だ。
何本もの男達の手が、腕を、足を、髪を掴む。
「んん…ッ!?」
くぐもった声は悲鳴にもならずに、管理部屋の中へと引き摺り込まれた。
「まさかこいつに全部聞かれちまうなんて…ッ」
「不味いぞ、どうにかしろ!」
「どうにかってどうするんだよ!」
「口を割らせねぇようにするしかねぇだろ!」
引き摺り込まれた体の上に、男が伸し掛かってくる。
両手両足共他の男達に押さえ付けられて、びくともしない。
「む、ぐ…!」
声を荒げようと、手足を暴れさせようとしても、それを男達は許さなかった。
「とりあえず布だ! 布寄越せ!」
「襖は閉めろ!」
「はっなん──うぐっ!?」
唐突に口元を覆っていた手が離れたかと思えば、息を吸い込もうとした柚霧の口に手拭いが押し込まれる。
乾ききった布の塊は口内を窮屈に押さえ込み、ぴたりと酸素を取り込む気道を止められて息が詰まった。