第13章 鬼と豆まき《弐》
男達の異質な目を複数向けられたまま柚霧は身を震わせた。
初めてだった。
こんなにもはっきりと彼らを罵しったのは。
その様に一瞬怯んだ男達だったが、すぐさま短い理性が弾けた。
「何を…下手なことを言ってんじゃねぇぞ柚霧!」
「菊葉は死んじゃいねぇだろ!」
「バッカ、お前ら声落とせっ」
負けじと声を荒げる男達に、見開いた柚霧の目が彼らを凝視する。
(死んでいない? 本気で言っているの?)
自分達が何をしたのかわかっていないのか。
原因不明だと思っていた病は、病弱だったと聞いていた母と同じ遺伝などではなかった。
故意的な毒物による身体の崩壊。
梅毒に似せたが為に、浅ましい行為によって移った病気だろうと医者には呆れられた。
健康的で美しかった絹肌は荒れ果て、艷やかな髪は白髪が混じり、爪も歯もぼろぼろになった。
最初はふらつく程度だった意識が度々遠のくようになり、まともに歩けなくなった。
震える手先は細かな作業ができず、箸を持つのも難しくなった。
姉は、事実上誰かの手を借りないと生きられない身体になったのだ。
(それを生きてると言えるの?)
柚霧にとっては、どうあっても変わらぬ大好きな姉のままだった。
母のようにも感じていたあの頃の姉は、死んでなどいない。
しかしそれをこの男達が肯定するのは、身の毛もよだつ程吐き気を感じた。
自分達の都合で毒漬けにした癖に、何を身勝手なことを宣っているのか。
「…ッ」
腹の底が煮え返るような怒りが湧いた。
落としたおはぎを拾うことも忘れて、柚霧は目の前の男達を睨み付けた。
今すぐ殴りかかりたい。
その体に姉が受けたもの以上の毒をぶち撒けてやりたい。
しかし女である自分の力では成し遂げられないことは重々理解していた。
気に入らなければ簡単に手を上げる男達の拳の味を知っていたからだ。
「…帰る」
「は?」
「こんな所もう辞める…ッ」
落ち着けと必死に内心言い聞かせて踵を返す。
男達の顔を見ていたら、この怒りはいつまでも消えやしない。
せめて視界から外して、やるべきことを優先しようとした。
元々出ていこうと思っていた場所。
その期間が短くなっただけだ。
そう言い聞かせて。