第13章 鬼と豆まき《弐》
「これもひとえに柚霧ちゃんの女としての力量だな」
「そんなこと…私は誰彼構わず客を取ってるだけです」
「ひっきりなしに客が跡を絶たないのは、それだけお前さんに魅力があるからだろ? そういや小吉も一度、接客して貰ったことがあったか」
「偶々ですよ。息子さんが出待ちとして月房屋に残りたがったから、その時間稼ぎに」
「時間稼ぎをあいつは時間稼ぎとは思っていなかったさ。お前さんの魅力は、その心内にあるからなぁ」
「こころうち?」
「男は女の身体にも弱いが、心内にゃもっと弱いもんさ」
言われても確信はなかったのだろう。不思議そうな表情を見せたままの柚霧に、店主はくつくつと喉の奥で笑う。
「そうだ。大したもんはないが、これやるよ」
「?」
「昼間食い損ねた残りで悪いが、いつも僧侶みたいな食生活してるだろ? 偶には褒美を体に与えねぇと」
「…おはぎ」
渡された笹の包みを両手で受け取れば、見覚えのある餡子の塊が三つ。
と同時にぴくりと実弥の耳もそちらへ傾く。
こくりと唾を飲み込む柚霧の目は、おはぎへと釘付けになった。
きらきらと小さな光を纏っているかのような熱い視線に、店主が声を上げて笑う。
「はっは! どんな金目の品を貰っても涼しげに笑うお前さんが、おはぎ一つでそんな顔をするとはなぁ! そういう顔の方がよっぽど愛らしいや!」
「っあ、ありがとうございます…」
「いやいや。おはぎ代だけで柚霧ちゃんの貴重な表情が見られたとなれば、俺の方が得をした。…で、肝心の買い物は?」
「あ、えっと。通和散を三箱程貰えますか」
「ああ、通和散な。ほらよ」
本来の来店理由はそこにある。
ちゃりんと掌で跳ねる小銭を渡し、品物を受け取りながら顔を赤らめ俯く柚霧。
身形には似つかわしくなくとも年相応に見えるそんな柚霧の反応に、店主は目元を柔らかくしてまた笑う。