第37章 遊郭へ
守るべきものが多過ぎる。
炭治郎一人では到底手が足りない。
いくら手負いでも、堕姫の怪我はゆっくりとでも再生へと向かっている。
焦燥に駆られるまま蛍は炭治郎と堕姫の間に飛び出した。
──シャラン
その足を止めたのは華麗な装飾音。
遊女が身に付ける髪飾りにも似ているようで異なる音は、唯一無二。あの男だけが奏でる音だ。
それを蛍は知っていた。
「おいこれ竈門禰豆子じゃねーか」
蛍が振り返る前に音は蛍を通り越し、炭治郎の下に落ちる。
「派手に鬼化が進んでやがる」
はっとした炭治郎の表情が止まる。
すぐ目の前で額当ての飾りを揺らし、覗き込んでいたのは宇髄天元だった。
「!? うっ…!?」
突然の天元の出現に驚いた炭治郎が、一呼吸置いて動揺を口に出す。
それが言葉となる前に、天元は呆れた顔で暴れる禰豆子を見下ろした。
「お館様の前で大見栄切ってた癖に、なんだこのていたらくは!」
図星を突かれた指摘にぐうの音も出ない。
あたふたと視線を彷徨わせる炭治郎に、天元は溜息を一つ。
「柱ね…そっちから来たの。手間が省けた」
「うるせぇなお前と話してねぇよ。失せろ」
その姿勢は臨戦態勢の堕姫を前にしても変わらなかった。
炭治郎の前で屈んだまま、顔だけ振り返り堕姫を見る。
立ちはだかる堕姫に、屈んだ天元の視線は下となるが、冷たい視線は明らかに見下していた。
「お前上弦の鬼じゃねぇだろ、弱過ぎなんだよ。俺が探ってたのはお前じゃない」
冷えた天元の顔を映す堕姫の視界がぐらりと反転する。
「…え?」
聞き捨てならない指摘に反論する暇もなかった。
反転した世界がそのままがくんと落下する。
逆さまになった世界は、堕姫の顔自体を反転させていた。
頸から切り離された頭部が、堕姫自身の手にすとんと転がり落ちたのだ。