第37章 遊郭へ
「あんた…なんでこんな所で油を売ってるわけ。誰が勝手に外に出ていいなんて許可したの」
するすると蛇のように漂う帯を纏わせ現れたのは、体の節々に怪我を負った堕姫だった。
特に顔半分の損傷は酷く、今にも右目が落ちそうな程、酷い火傷で爛れている。
「それに擬態も解いて不細工に成り下がってる」
「…っ」
「そう。やっぱりあんたはアタシ達の敵だってことね」
敵などと言いたくはない。
それでも肯定はできない。
身構えたまま動かない蛍に、ひゅんひゅんと堕姫の帯が唸り始める。
──バキャン!!
目にも止まらない速さでしなり上げたのは、蛍に対してではなかった。
二階の炭治郎が飛び込んだ部屋の壁を壊したのだ。
「でも今はあんたよりあっちが先よ」
「! 待って!」
穴へと向かって飛躍する堕姫に手を伸ばす。
影は後を追い飛び出したが鋭利な形はしていない。
殺意のない血鬼術など取るに足らないと、堕姫の帯は簡単に影を叩き落とした。
「殺すつもりで来たらどう。そんな生温い術なんかじゃ足止めにもならないわ」
ぎょろりと剥き出しの片目で蛍を一瞥すると、堕姫は部屋の中心で暴れ回る禰豆子へと視線を変えた。
「よくもまあやってくれたわね。そう、鬼血術も使えるの。鬼だけ燃やす奇妙な血鬼術」
体中の重度の火傷は禰豆子の血鬼術により燃やされたものだった。
堕姫だけを燃やし、その他の無機物には影響を及ぼさない。
姫鬼にとってはなんとも腹立たしい術だ。
「しかもこれ中々治らないわ。物凄く癪に障る。物凄くね」
その苛立ちを具現化するかのように、堕姫の周りで揺らめく帯が再びしなりを上げる。
びきびきと爛れた肌に血管を浮き立たせ、牙を剥いた。
「たんじろ…!」
後を追い飛躍した蛍の足が、窓際へと足をかける。
暴れ回る禰豆子を押さえ続けている炭治郎はすぐに堕姫への対処ができない。
ましてやその部屋にいた住人か、隣部屋へと続く襖の影に隠れるようにしてこちらを見ている女性二人。部屋の中には遊女の身なりをした女を抱きしめたまま固まっている男もいる。