第37章 遊郭へ
屋根伝いに走れば、崩れた屋根に、抉れた壁。各所に戦闘の跡が点々と残されており、明らかな激しさを物語っていた。
「っいた! あそこだ蛍!」
背中から呼ぶ炭治郎の呼び声に応えずとも、夜目が利く鬼の目を持つ蛍は既にそれを捉えていた。
一件の建物の壁が大きく削り落ちている。
その手前に立っている人影は確かに禰豆子の姿形をしていた。
ただその背丈はいつもより大きく、右の額からは巨大な角が生えている。
(何あれ…っ)
はだけた着物の中から除く禰豆子の白い肌には青々しい血管が浮き上がり、特に目元から罅割れのように広がる血管は痛々しい程に青白く脈打っている。
何よりその口元からは隠しきれない鋭い犬歯が覗いており、異常性を明確に表していた。
「禰豆子!」
何かを追うように穴の空いた壁の中へと歩いていく禰豆子には、炭治郎の声が届いていない。
速度を落とさず駆け寄った蛍は、壁の中にいる人影に気付いた。
その建物内で身を売っていたであろう遊女が数人。
そのうちの一人は破壊された壁の瓦礫で怪我でもしたのか、腕から血を流している。
禰豆子の目がそこで止まった。
牙を剥き出した口元から涎が溢れ出し、ぽたぽたと足元を濡らす。
(まずい!)
それがどういう状況なのか蛍が何より知っていた。
恐らく堕姫との戦闘により鬼化が進んだ禰豆子の前に、血の匂いを充満させた人間が無防備に現れたのだ。
「炭治郎踏ん張って!!」
「っ!?」
説明をする暇などなかった。
急ブレーキをかけるようにドン!と地に右足を突っ込んだ蛍が、炭治郎の肩と腕を掴む。
そのままブレーキの遠心力を使い、背負い投げるように炭治郎の体を禰豆子目掛けて投げ付けた。
同時に弾けるように飛び出した禰豆子が、牙を剥いたのは腕を怪我した遊女だ。
そのまま欲望に任せて襲いかかろうとした禰豆子の大きな牙に、炭治郎の握っていた日輪刀の棟がガキンと挟まる。
「禰豆子ッ!!」
間一髪だった。
鋭い禰豆子の爪が遊女に辿り着く寸前で、被さるように飛びついた炭治郎が禰豆子の牙を食い止めたのだ。