第37章 遊郭へ
「嫁達の連絡が途絶えたんだよ。遊郭潜入捜査中の定期連絡のな」
背を向けていた蛍が、無言で振り返る。
嫁達が消息不明であることに耳を傾けたのだろうが、そういえばこいつも過去遊郭に関係していた女だったと思い出す。
以前、偶々とある花街で煉獄兄弟と共に捜査に来ていた蛍と出くわした。
そこは蛍が過去遊女として働いていた花街だったらしく、隠密で監視させていた忍獣の鼠より仕入れた情報だ。
蛍にとっては、柚霧として名を残し、そして人間としての命を散らせた場所。
場所は違えど、遊郭は遊郭。同じ花街だ。
そこに連れていくのは如何なものかと、一瞬考え込んでしまった自分に静かに驚く。
つい先程まで、鬼殺に甘い考えは不要だと思っていたのは他ならぬ自分自身であるというのに。
「あー…それで俺も遊郭(そこ)に向かうことにしたんだが、内部深くまでは踏み込めねぇからな。使える女隊士を探し」
「行く」
「て…ってお前」
「それがカナヲちゃんを見てた理由なら、私が行く。それでいいでしょ」
「…遊郭だぞ」
「わかってる」
「潜入捜査だから、また仕込む必要もある」
「心得てる」
予想外の決断の早さに、天元の方が一瞬尻込みをしてしまった。
大丈夫なのかと続けそうになって、寸でのところで呑み込んだ。
遊郭は夜の街。
昼間は寝静まっている場所だからこそ、鬼である蛍でも十分に機能できる場所だ。
尚且つ炎柱仕込みの腕前を持つ、場慣れした女隊士。
カナヲよりも蛍の方が利点は多い。
「…あっそォ。ならつき合ってもらうかね」
見下ろす狐面の小さな穴から感じる視線は、何一つ揺らいでいない。
がしりと後頭部を掻くと、天元が先に白旗を上げた。
元々女子供には優しい面を見せていた蛍だが、無限列車後は言動にその思いがより含まれているように感じる。
女子供だけではない、命を奪われる側の人間に対する思いは、男も高齢者も関係ないのだろう。
(…それだけの死を目の当たりにしたんだ。当然っちゃ当然か)