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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



「っつぅ…! ぅうっ!」

「くそッ…! 蛍!!」


 咄嗟に羽織っていた上着を脱いで蛍に被せる。
 空気に触れないようにと覆っても、炎は勢いを止めることはなかった。
 寧ろ更に加速して、ごうごうと燃え盛る。


(っ!? 熱くない…っどういうことだ!? やはりこれは幻覚ということか!?)


 燃え盛る炎に蛍はのたうち回り苦しんでいるというのに、触れた杏寿郎は何も感じなかった。
 痛みはない。
 ほんのりと温かさはあるが、それだけだ。


「蛍ッ蛍落ち着けっ! これは恐らく幻覚だ! 本物の炎じゃない!!」

「ぎっな…ッ! うぐ…!」


 必死に言い聞かせるも、痛みに苦しむ蛍の耳には届いていない。


「目を覚ませ! 俺を見ろ蛍!!」

「な…ん…ぎぎ…ッ」


 苦しむ蛍の口からは、困惑と呻き声だけ。
 その口から覗く歯が、鋭い牙となる。
 頭を抱える両手の爪が鋭利を増し、日焼けを知らないような白い肌がふつふつと煮え滾るように震える。

 限界まで見開くその目が、血のように赤く、きりきりと縦に割れていった。


「ほ…蛍…」


 その姿には見覚えがあった。
 蛍だからということもあるが、それ以上に任務先で何度も対峙してきた姿だからだ。


「その姿は…鬼の…」


 それは紛うことなき鬼の姿。

 まるで覆い尽くす炎により真の姿を炙り出されたかのように、杏寿郎の前に現れたのは鬼である蛍だった。

 晴天の下。
 全ての鬼が持つ宿命のように、陽光に体を炙られる。
 陽の下では生きていけないと、それが罰なのだと、全身で訴えるかのような姿だった。

 思わず唖然としてしまう。
 投げかける言葉を失い、杏寿郎は目の前の蛍を凝視した。

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