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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第33章 うつつ夢列車



 なのに何故すぐ出てこないのか。


(可能性は二つに一つだ)


 蛍もまた術にかかっている。
 だから記憶にないことは口にできない。

 もしくはこの世界そのものが、テンジの作り出していたような亜空間である。


(もし二つ共に真実であれば──まずい)


 早く此処から脱しなければ。

 第六感と言おうか。
 長年戦場を駆け抜けてきた杏寿郎の勘が、危機感を仰ぐ。

 腰が自然と浮いていた。


「蛍」

「あの日はね、」

「此処にいたら駄目だ」

「え?」


 徐に蛍の腕を掴む。
 きょとんとこちらを見てくる顔は無防備そのもの。
 危機感など微塵もない。


「移動しよう。今すぐ、此処から」

「ど、どうしたの? さっきから…」

「理由は定かではないが、此処にいたらまずい気がする」

「なんで?」

「鬼舞辻無惨はどうなった。お館様は? 他の柱達は」

「無惨なら倒したでしょ? だから私もこうして人間に…」

「では誰が討ったんだ?」

「それは…」

「その後の鬼殺隊の方針はどうなった。滅すべき存在が消えたなら組織は、柱達は、今後どうなる」

「そ、そこまでのことは私にも…杏寿郎?」


 立ち上がる杏寿郎につられて、蛍も腰を上げる。
 それでもその場から動こうとしない。
 鬼気迫る杏寿郎の態度に不安な表情を見せながら、口籠る。

 それでも意を決するように再び口を開いた。


「私は、杏寿郎と──」


 ──ボッ


 一瞬だった。

 杏寿郎の視界に朱く、朱く。青天の下でも眩く映える朱い炎が舞う。


「ぁぐ…ッ!?」

「蛍ッ!!」


 その炎は蛍の体から突如、発火した。

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