第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
重なり合う息遣い。
こもる熱。
交わる視線が絡み合う。
「はぁ…蛍」
舌の愛撫で濡れて光る、艶やかな唇。
何度も愛撫した所為で紅もすっかり落ちている。
それでも赤く色付くのは蛍の熱か。
親指の腹で愛おしそうにひと撫でした杏寿郎は、切なさも混じる声で名を呼んだ。
それが何を求めている声か。わからない程、浅い道を歩んできたつもりはない。
「ん、」
こくん、と重ねた舌先で交じり合った体液を飲み込んで、蛍は緩やかに両腕を広げた。
言葉に成す前に、濡れた瞳が意味を持つ。
きて、と。
「ッ」
「っあ…!」
十分な誘いだった。
自然と腰を落とした杏寿郎の猛る雄が、あるべきところに行きつくように蛍を貫く。
つい先程まで味わっていた蜜壺だというのに、甘く締め付けて来る狭さに奥歯を噛み締めた。
迎え入れた蜜壺は、易々と奥まで道を許す。
背後から責められていた時とは異なる角度で内壁を擦り上げられ、蛍は仰け反った。
──しゃりん
儚さを奏でるような音を二人の耳が拾った。
は、と一瞬目を止めた杏寿郎の視界の端に、乱れた蛍の髪の波間に埋もれる銀のそれを見た。
辛うじて引っ掛かっていただけの櫛は、シーツとアネモネの波に埋もれる蛍の髪から攫われてしまったのだ。
零れ落ちるような儚さ。
つい手を伸ばしたくなるような。
それでも杏寿郎の視線がそれを捉えたのは一瞬だけだった。
伸びた手は離れ落ちた櫛を拾わず、握ったのは蛍の手。
掌で覆い、指を絡め、顔の横に縫い付けるように甘く縛る。
「は…ッ」
「ぁん…ッ!」
快楽の波を掻き分けるように、腰を揺らして奥を突く。
ゆっくりとした動作だったが、奥を抉っては浅い上膣を擦る。
「は…っぁ、んぅ…! ひッあッぁッ」
抉られればぞわぞわと体を走り上がる快感に蛍は仰け反り、浅口を責められれば腰は勝手に跳ね上がった。
繊細な仕草で適所を突いてくる責めに、休む暇もなく溺れてゆく。