第24章 びゐどろの獣✔
偶に聖人君子ではなかろうか、と褒め称えられる杏寿郎だが、家族として身近に見ている千寿郎としては、そうではない顔も知っている。
こと蛍が関係すると感情も様々に豊かになるのだ。
「随分と愛らしいものを見ているな」
「あ」
「兄上」
ちらりと後方の兄の姿を伺おうとすれば、既に当然のように二人の傍に来ていた。
「不死川様は?」
「彼もすぐ来るだろう。それより蛍、何か欲しいものでも見つけたのか?」
「え? あー…ううん。綺麗だなって見てただけ」
「そうなのか? 遠慮せずとも、君が欲しいと思えたなら俺が──」
「ふふ、いいよ。前にも言ったけど、その気持ちだけで十分。特大のお鍋、新調してもらえるしね」
「しかしだな…」
「あ、この簪。禰豆子とか似合いそう」
「…むぅ(蛍に似合うものを探したいんだが…)」
ゆったりとした足取りで装飾を見て回る蛍の横を、腑に落ちない顔でついていく杏寿郎。
それでも金輪の双眸は蛍の一挙一動を見逃さないようにと見つめながら、傍について離れない。
背を丸めて蛍の隣で一つ一つ覗き込む様は、鍛錬を行っている時のような集中だ。
やはり蛍相手となると、千寿郎も知らない感情を覗かせる。
微笑ましくも見える二人の姿にくすりと笑って、千寿郎も隣の露店へと視線を泳がせた。
(あ、こっちにはお花も売っているんだ)
色とりどりの花々が飾られた露店は、見た目にも華やかだ。
香りに誘われるように足を向けた千寿郎は、自分の手持ちで買えるものはないかと物色を始めた。
「桔梗、ないかなぁ…」
「桔梗?」
「母上の好きな花だから、お墓参りの時に……ぁ」
折角だから、祭り土産として母の墓に飾りに行こう。
そう考えていた千寿郎は、振り返り見慣れぬ顔に声を上げた。
「母親…確か、病(やまい)で」
「不死川様」
其処にいたのは、杏寿郎同様気配もなく傍に来ていた実弥だった。
しげしげとこちらを見てくる目は、千寿郎の口にした"母"という言葉に興味を持っているようだ。