第24章 びゐどろの獣✔
「ああ、はい。母は既に他界しています。お墓に飾る花を探していたんです」
「…祭りの最中にかァ?」
「折角の神幸祭の思い出ですから、母上にも話しに行きたくて。どうせなら母上の好きな花を持って行こうかなって……不死川様?」
「……」
「わ…っ?」
じぃっとこちらを見ているだけだった実弥の手が、徐に小さな頭をわしゃわしゃと撫でる。
「そりゃお前の母ちゃんも喜ぶなァ」
杏寿郎とは違う、視界を揺らすように掻き撫でる手。
しかし杏寿郎と同じに大きな掌は硬く、且つ優しい。
「そう、でしょうか…」
「なんだァ。喜ばせたくて選んでたんじゃねェのか?」
撫でられる掌越しに見上げる実弥の瞳は、杏寿郎や蛍に向けていたような、かっ開いたものではない。
顔の傷跡をものともしないような優しい眼差しに、強張っていた千寿郎の体から力が抜けた。
「あの…不死川様も、一緒に選んでくれませんか?」
「…あ?」
「母上に報告したいんです。風柱様と出会ったことを。だから、一緒に活ける花を選んでくれたら…嬉しいな、と…」
両手の指先を膝元で絡めながら、おずおずと頼み込む。
千寿郎の希望は実弥の拍子を突いたようで、ぽかんと目尻の睫毛が長い猫目が見開いた。
「あー……俺ァ、花のことなんざよくわからねェからよ…」
「いいんです。不死川様が、良いと思ったお花を選んでもらえたら」
「だがよォ…」
「形は関係ないんです。そこに思いが入っていたら、それだけで十分なんです」
「…煉獄みたいなことを言うなァ、お前」
「兄上の受け売りですから」
へにゃりと緩み笑うのは、兄とのその経緯を思い出してのことか。
一瞬、実弥の脳裏に遥か昔の面影が重なった。
『にぃちゃん』
特徴的な八重歯を見せて、へにゃりと笑う。
己よりも大切な、唯一の家族。
「…仕方ねェなァ…」
「! ありがとうございます」
ぽりぽりと頬を指先で掻きながら、溜息混じりに実弥も露店へと踏み出す。
ぱっと笑顔になる千寿郎にむず痒いものを感じながら、顔を背けて品物を物色した。