第24章 びゐどろの獣✔
「兄上と不死川様、何か騒いでますね…」
「まぁまぁ。不死川は声を荒げるのが挨拶みたいなものだし。あ、それより千くん見てこれ。可愛いねっ」
二人の様子が気になるのか。ちらちらと振り返る千寿郎を、慌てて蛍が引き止める。
実弥に杏寿郎との情事を暴かれてしまうのは、まだ許せる。
ただ目の前の少年に事細かに知られてしまうのは、何がなんでも避けたいところ。
露店に並ぶのは、何も料理や甘味だけではない。
並ぶ色とりどりの花飾りや櫛や簪などの装飾に蛍が目を止めれば、千寿郎も頬を緩ませた。
「姉上の方こそ可愛いですね」
「えっ?」
「こういうものにも興味あるんだなって。蜜璃さんと違って、あんまり装飾やお洒落の話を姉上はしませんから」
「人並みに、興味はあるよ? でもどちらかと言うと機能性重視で考えちゃうから、なぁ。この簪もとっても綺麗だけど、華奢だから身に付けてたら任務中に壊してしまいそうだし…」
「それはいいんですか? 姉上がいつも付けている簪」
「これ? これは義勇さんが蜜璃ちゃんとのお揃いリボンを失くした代わりとして、くれたものだから。特別な何かでくれた訳じゃないから、気軽に使えるというか。義勇さんも特別使いされた方が困るだろうし。だからいいの」
義勇なりの優しさや気遣いが詰まっているのは確かだ。
軽い気持ちであげたであろう義勇とは異なり、蛍の心が満たされたのも確かだ。
天元の宝石が加わった今、大切なものであることも。
それでも使い慣れた簪は、日常用としてすっかり蛍の頭に馴染んでいた。
「ぎゆうさん?」
「あ、うん。水柱の男性。冨岡義勇さんって人」
「冨岡…その名前なら兄上から聞いたことがあります」
「本当?」
「少しずつ会話ができるようになったと、以前少し」
「あはは。杏寿郎らしい。会う度によく話しかけていたみたいだし」
「そうなんですね…(僕が兄上だったら、そっちの方が気になるけどなぁ…)」
特別扱いも嬉しいものだが、大切な人の日常として傍に置いてもらえるなら、尚嬉しいもの。
自分が兄の立場なら妬いてしまいそうだと思いながら、千寿郎は頸を軽く傾げた。
視線の先では、義勇という人物を思い出しているのか。笑う蛍の顔は明るい。