第24章 びゐどろの獣✔
「あっ皆もうご飯食べ終えたね。じゃあ次の人の為に席を空けよう!」
「そうだな! 行くぞ千寿郎!」
「あ、ハイっ」
「おい待っ…おいコラ!」
バタバタと最初に席を立ったのは蛍。
それに続く杏寿郎に、習うように千寿郎も慌てて立ち上がる。
仕方なしにと後を追いながら、実弥は白々しい二人に顔を顰めた。
「千くん、ほら見てあれ。あっちから音楽が聴こえるっ」
「そうですね…って姉上、そんなに急がなくても…っ」
いそいそと千寿郎の手を引いて進む蛍はその場から逃げる為か、本当に祭りを楽しんでいるからか。
どちらにせよ隣に無垢な少年がいる為に、安易に突っ込む気にはなれない。
「また人混みに吞まれないようにな! 蛍に千じゅ」
「煉獄よォ」
代わりに、後を追おうとする同僚の肩をがしりと掴んだ。
「お前、好いた女に汗飲ませてんのかァ…」
「っ流石にそれはない!」
「流石にってなんだ」
「む…いや…うむ…」
据わった目で穴を開けるように見てくる実弥に、杏寿郎の語尾が萎まる。
いつもは闊達な喋りで実弥を押していく杏寿郎が、沈黙を作り視線を泳がせる。
彼らしくない言動は、それだけの何かがあるからだ。
「鬼のことなら俺も知っておくべきことだろォ。血液以外にあいつを静められる方法があるなら教えろ」
「…ううむ…沈静化できているのか、それも定かではないからな…」
「それでも結果は少なからず出てんだろォが。無駄とわかっていることをするような奴じゃねェだろ、お前は」
「…随分、高く評価してくれるのだな」
ふ、と杏寿郎の表情が和らぐ。
「ありがとう」
「…礼言われる為に訊いてんじゃねェ」
「それでも俺が言いたかったんだ。歴代の風柱の中でより腕の立つ君に、認めて貰えるのはとても光栄なことだ。父上にも自慢できる!」
「ンなこと自慢にもなりゃしねェ…って待てオイ。さり気に話終わらせようとしてんじゃねェぞォ」
「むぅ…君もしつこいな!!」
「お前にだけは言われたくねェわ!」