第24章 びゐどろの獣✔
「担ぎ手の少年達も皆しかと鍛えていたから、俺が先導する必要もなかったしな。逆に導いてもらえた程だ」
「どっせいって言って?」
「うむ。皆あれが気に入ったらしい!」
「ふふっ周りの人達、笑ってたよ。初めて聞いた掛け声だって」
「可笑しかっただろうか?」
「ううん。楽しかった。私もつい叫んじゃったし。どっせいって」
「聞こえてました、姉上の声」
「えっ本当?」
「はい。おかげで、凄く勇気を貰えましたから」
「千寿郎は神輿の先頭で担ぎ手を担ってくれたからな。少年達も一目置いていたぞ」
「見た見た。あれ凄かった」
「そんなことは…彼らとは、学校で顔見知りでしたし…」
「学び舎の? 千くん、お友達沢山いるんだ」
「そうだったのか! それは俺も興味がある!」
「普通…だと、思います。多分。顔見知りくらいで…」
「ンな謙遜しなくてもいいんじゃねェかァ」
蛍と杏寿郎の反応に、照れなのか千寿郎の反応は始終はっきりしない。
小さなその背を押したのは、意外にも家族ではない者だった。
「あいつらの顔見てみろ。疑いようのない目してんだろォ」
(…本当だ)
きらきらと輝いているようにさえ見える、兄と姉の瞳。
何よりそれが聞きたいのだと口より目で語る二人に、千寿郎も思わずくすりと笑ってしまった。
「本当に、大したことはないんですよ」
「それでも聞きたいの。あ、飲み物も買いに行かなきゃね」
「ならば半纏も着替えねばな」
「ぁ…まだこの格好でいたい、です。駄目ですか?」
余程神輿渡御が楽しかったのか。自身の半纏姿を見下ろしておずおずと千寿郎が希望すれば、二人が頸を横に振るはずもない。
「折角だしな。ならば俺もこのままでいよう!」
「見た目からしてもお祭り気分を味わえるしね。それじゃあ、行こっか」
差し出される黒手袋をした蛍の手。
自然とその手を握り返すと、千寿郎も結んだ髪房をひょこりと揺らし軽やかに地を蹴った。
「はいっ」
「……」
「言うなよォ。またあのクソでかい声で阿呆なことをよォ」
「…む」
蛍と千寿郎の後ろ姿をそわそわと見守る杏寿郎に、しっかりと実弥が釘を刺す。
次は手を繋ぎたいなどと叫ばれたら、柱の威厳も何もありゃしない。