第24章 びゐどろの獣✔
微笑ましい光景に、ずいと前に出た杏寿郎が素直な欲を口にする。
呆れた目を向けたのは、自然と蛍の隣についていた実弥だ。
「不死川! 君も見てくれていたのか!」
「…鬼らしき痕跡は何もなかったからなァ」
「そうか。俺の故郷にまで来て鬼退治を任せて申し訳ない。しかし悪鬼が不在なら、この際だ。不死川も一緒に祭りを観ていかないか」
「そのつもりで私も誘ったの」
「…あ?」
「だってほら、こんな傷だらけの男が刀背負って村外れを彷徨いてたら怖いでしょ」
「あァ?」
「それが千くんと並べばあら不思議。怖さが不思議と軽減される。少年を脅…守るお兄ちゃん! ということで一緒に観光よろしく」
「テメェ今脅す言いかけただろォが」
ぐっと握り拳を上げて笑顔で告げる蛍に、ぴきりと実弥の額に青筋が浮く。
笑顔を向けられれば向けられる程、苛立つのは何故か。
「わ、私も不死川様と一緒に観て回りたいです! いいで、しょうか…っ」
そこへわたわたと千寿郎が割り込めば、あら不思議。不穏な空気をケッと小さな毒づきで済ませると、顔を背けた実弥は口を結んだ。
沈黙するということは、彼なりに呑み込んでいるということだ。
『蛍の見込み通りだな。千寿郎の影響力が凄い』
『でしょ。流石、世界一可愛い弟です』
ひそひそと声を静めて語り掛けてくる杏寿郎にも、ぐっと拳を握って見せる。
そんな蛍の目に、じっと見てくる金輪の双眸が重なった。
じっと。じぃっと。じぃいーっと。
実弥と同じく沈黙はしているが、彼が何を言わんとしているのかすぐにわかった。
「ふふ。はい、じゃあ顔下げて」
「! うむっ」
眉尻を下げて、くすりと笑う。
ハンカチを持ち上げれば、素直に鮮やかな焔色の頭が目の前に下りてくる。
しっとりと湿っているだけとなった肌をハンカチで優しく拭いながら、蛍は顔を綻ばせた。
まるで大きな獣が懐いてきているかのようだ。
「杏寿郎も、お疲れ様。楽しかった?」
「ああ、とても。神輿渡御は、見るとやるとは大違いだな。人々を魅了して止まない祭りには、一人一人の努力と調和と団結が欠かせないのだと知ることができた」