第24章 びゐどろの獣✔
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「いい汗を掻いたな、千寿郎!」
「はいっ」
「体は痛んではいないか?」
「大丈夫です!」
「うむ! 日頃鍛え抜いている賜物だ、感心感心!」
御旅所へと辿り着いた神輿に、大仕事終えたような達成感に浸る担ぎ手達。
きらきらと光る汗粒を乗せた煉獄兄弟は、より一層爽快だ。
「いやぁ、見事な神輿渡御だったなァ。坊主共も楽しんでたし、助かったよ。杏ちゃん。千ちゃん」
「葵屋の主人! いやなに、俺達も大変世話になった。この半纏もありがとう。洗って後日届けさせてもらう」
「本当に、貴重な経験をありがとうございました」
「いいっていいって。どうせなら来年までその半纏は取っておいてくれよ。そんで来年も、ぜひ参加してくれ」
「うむ。機会が合えば、ぜひ!」
「わ…私も、兄上とまた参加したいです…っ」
「はっはは! 嬉しいねぇ、その時はまた頼むよ! じゃあ、そろそろ帰してやらねぇとな」
「帰す?」
「ですか?」
仲睦まじい兄弟ということは知っていた。
しかし杏寿郎が見知らぬ女性の手を恭しく引き、歩く様は初めて見たのだ。
「熱心に見守ってくれてる、杏ちゃんの大事な人の処にさ」
顎で促す葵屋の先には、竹笠を被った女性が一人。
沢山の人混みの中でも、竹笠を被った者などほぼいない。
ぽつんとこちらを見守る唯一の姿に、杏寿郎と千寿郎は顔を綻ばせた。
まるで帰る場所を、見つけたかのように。
「姉上っ」
「おかえりなさい千くん…っわ、すっごい汗。頑張ったんだね」
「あ、すみません。汗が…」
「ううん。はい、じっとしてて」
「む、ん。ぁ、姉上」
「喉乾いてない? 何か飲み物買いに行こうか」
「はい…あ、いえ…」
「ん?」
「…ほ、欲しいです…」
「よし。杏寿郎も?」
「そうだな。だがその前に、俺も大層汗を掻いたみたいでな!」
「? うん、見てわかる」
「拭ってくれないだろうか!!」
「…クソでけェ声で阿保なこと言ってんじゃねェよ…」
小走りに駆けてくる千寿郎を、蛍は笑顔で出迎えた。
頬を濡らす汗を所持していたハンカチで拭えば、幼い顔はほのかに赤くなる。