第24章 びゐどろの獣✔
「不死川も気付かれないようにお願い」
「俺は間借りしてるだけだァ。黙って出てったって気付かれねェよ」
「杏寿郎の勘の良さを甘く見たら駄目だよ。頭の回転、本当に考えてる?って思うくらい速い時あるから。問題見て答え出すまでに秒とかからない時あるから。あととってもお節介焼き」
「……」
真顔で告げてくる蛍の言葉は、一理ある。
だからこそ最初は杏寿郎を拒絶ばかりしていた実弥も、彼の挫けない声かけに負けたのだ。
「ったく。いいからお前は自分の心配してろォ。上弦の鬼に気に入られたってことは、また現れる可能性は高い。今のままじゃ、そいつの手駒にされるのがオチだ」
「うーん…そう、かな…割と引き際もあっさりだったし、遊び半分で手を出した感じは、したけど」
「遊びで出されたのかよ…」
うーん、と頸を捻り告げる蛍こそ余りにもあっさりとしていて、思わず実弥の方から突っ込んでしまった。
はたと口を閉じた蛍の、眉尻が下がる。
困ったような、はたまた哀愁混じるような。なんとも言えない表情で、口角を緩く上げた。
「まぁ、はっきりはわからないけど、自分がすべきことはわかってるから。いちいち凹んでる暇もないし。今夜、お願いします」
足元を直すと、実弥に頭を下げて木陰を出ていく。
先に光の中へと踏み出したのは、蛍の方だ。
「行こう、不死川。お神輿が到着する時にいなかったら、杏寿郎達に心配させる」
「……ああ」
手にしていた刃を鞘に納めると、実弥もまた静かに後を追った。
与助が蛍の前に現れる可能性が少しでもあるなら、傍に張り付いて見張るのが一番だ。
凹んでいる暇はない、というのは頷ける。
鬼殺隊もそうだ。
柱に昇り詰める間にも、実弥の掌から幾人もの命が零れ落ちていった。
名前も知らない一般隊士から、かけがえのない戦友まで。その度に心を挫かせていては、鬼の世を渡り歩くことなどできない。
──それでも。
(だったら、あんな顔見せんじゃねェよ)
何も感じない訳ではないのだ。
心を砕いて、血の涙を流して、それでも己を叩いて叩いて立ち上がる。
幾つもの屍を越えた先に、望む世界があると信じて。
でなければ、正気の沙汰ではいられない。