第24章 びゐどろの獣✔
「一体何考えてやがる。あれだけの人の波に入るなら、それ相応の覚悟をしてけってんだ」
「っでも、与助を見つけて」
「でもじゃねェ! そいつを見つける為なら関係ない人間は血を流してもいいってのかァ! 責任取らされるのはお前だけじゃねェ、煉獄もだぞ!」
「ッ…ごめん、なさい」
松平与助のことは、実弥も杏寿郎から聞いていた。
その男と蛍の関係も、蛍が見境なく悪鬼となってしまうことも。
だからと言って罪のない人々を傷付けて許されるはずがないのだ。
それで何より後悔するのは、蛍自身でしかない。
引き摺り出した蛍を、実弥は有無言わさず群衆から離れた木陰に放り込んだ。
杏寿郎達はまだ神輿渡御の最中であり、途中で放り出してこちらへ来られるはずもない。
そもそもの騒動にも、恐らく気付いていないだろう。
今この場で面倒を見られるのは自分だけだとわかっていたから、また舌を打ちそうになってしまう。
杏寿郎の名を出せば、途端に蛍の威勢が弱まる。
瞳の色も爪も牙も引っ込めて、俯き袴を握り締めていた。
「ったく。お陰で捜索は中止だな」
「…鬼の、痕跡は…」
「なんも出てこねェ。平和ボケした祭りなだけだなァ。目の前の鬼女以外は」
「……」
「本当に松平だったのかァ」
「え?…ぅ、うん。見間違いじゃないと思う…見間違えるはずが、ない」
しゅんと下がっていた頭が、実弥の問いに上がる。
戸惑いながらも、はっきりと頷く様は確信しているようだ。
「向こうはこっちに気付いてやがったか」
「わからない…目は一瞬合った気がしたけど、私は竹笠被ってるし…向こうは気付いていなかったかも」
「相手は一人だったか。他に仲間内は」
「一人だったと、思う……多分…ごめん。与助の顔を見たら、それしか見えなくなってしまって…」
「松平与助専用悪鬼かよ…自分の力の制御くらいできるようになれって前から言ってんだろォ。あ?」
「ぅ…ごめんなさい…」
蛍と与助の間にあった出来事は、実際に過去の記憶を見て知っている。
だからこそ一筋縄ではいかないことを、実弥も理解はしていた。
声を荒げて責め立てられはしない。
深く溜息をつくと、前のめりに出していた姿勢を正した。