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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「鬼より確実なのは、松平がこの村に潜伏してるってことだなァ。お前に気付いていねェなら、まだ確保する機会はある」

「…杏寿郎達には」

「わかってる。話さねェよ」


 神輿渡御の掛け声は、まだ此処まで届いている。
 村が一体となって興じる盛大な祭りの初日なのだ。
 それを壊す気は実弥にもなかった。


「その代わりお前は一日松平の囮だァ。しっかりそのこと自覚して、テメェの感情を制御しやがれ」

「私なんかで囮になるのかな…与助が出てくるとも考え難いけど…」


 駒澤村で初顔合わせをした時は、死んだはずではと蛍を幽霊を見るような目で見ていた。
 その与助が、蛍を求めるとは考え難い。


「そいつは花街で女を物色してたんだろォ。ならお前だって狙われる可能性はある」

「そう…かなぁ…うーん…」


 腕を組み頭を捻る蛍に対し、実弥は違っていた。


(何言ってやがる。男の欲ってのは簡単に吹き出すもんだって、お前だって知ってんだろうが)


 与助は、唯一月房屋で無惨の手から逃れた男だ。
 その男の姿は、実弥も影鬼の中で見ていた。

 命尽きゆく蛍の体を、掘り起こした土の中に投げ捨てながら告げていた姿も。





『じゃあな、柚霧。一度はお前を抱いてみたかったけどよ。残念だ』





 己の手で死なせゆく命を前にして、のうのうとほざいたのだ。
 あんなにも下衆な欲は見たことがない。

 それは正しく、人を餌として喰らう鬼と同じ欲のようにも見えた。
 目の前に餌があれば、迷いなく食らい付く鬼そのものと。

 だからこそ今の蛍でも囮に成り得るのだ。


「一先ず煉獄達の所に行くぞォ」

「うん──…あ、待って」

「あ?」


 此処にじっとしていても始まらない。
 一先ずと踵を返そうとした実弥の羽織の裾を、蛍が咄嗟に握った。


「不死川に、話したいことがあって」

「話ィ? 今しなきゃならねェことか」

「うん…今しか、できないかも…不死川だけに、聞いて欲しくて」

「…なんだよ」


 杏寿郎達には話せないことだと言う。
 歯切りの悪い蛍の出だしに不審に思いながら、実弥は再度向き直った。


「ぐだぐだ話すなよ。簡潔に話せェ」

「…その……実は──…」

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