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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第22章 花いちもんめ✔



 どんなに好き勝手に抱かれようとも、それは切り取られた空間での男女の秘め事。
 だからこそ割り切ってこられたというのに。


(嫌だ…っ)


 関係のない第三者に見られるなど、自分の醜さを余計に露呈するだけだ。


(嫌…ッ!!)


 血が滲む程に唇を噛み締めたまま、蛍は強く目を瞑った。


 ──ガチッ


 不自然に聞こえたのは、戸が軋む音だった。
 ガチ、ガチ、と何度も軋むその音に、瞑っていた目を恐る恐ると開ける。


『あれ、可笑しいな…開かないや』

『だから言ったでしょ』


 男の手でも開けられないその扉は、内側からは童磨の血鬼術で氷漬けにされていた。
 霜が付く程に凍った扉は、人間の手では開けることすらままならない。
 氷付いた襖もまた、がちがちに固まり鉄のように硬くなっていた。


『というか、この扉異様に冷たいんだけど…』

『仏様にでも祟られたんじゃない?』

『え…っ!?』

『私、知ーらない』

『ま、待てよ…!』


 やがては騒がしく遠ざかる二人の気配に、蛍は唖然と声を失った。


「なーんてね。あはっ、驚いた?」


 しんとした静寂に、場違いな明るい童磨の声が響く。


「其処らの人間の目に、蛍ちゃんの裸を易々と拝ませたりしないよ」

「……」

「でもあんまり蛍ちゃんが傷付くようなことを言うから、俺もちょっと意地悪してみたんだ」

「……」

「どう? これで俺の気持ちも少し…は…」


 呆然と扉を見ていた蛍が、力なく振り返る。
 かと思えば、悪戯が成功した子供のように無邪気に笑う童磨を前にして、ぼろりと。


「えええ…っ!? ほ、蛍ちゃんっ?」


 目から大粒の涙を零したのだ。


「…っ」

「ご、ごめんね。そんなに吃驚させちゃった?」


 どんなに激しく抱かれても、涙まではと耐えていたものが予想外のことにぷつりと切れてしまったようだ。
 わたわたと両手を振って慌てる童磨に、すんと鼻を啜って。涙を耐えた目で睨み付けた。

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