第17章 初任務《弐》
「蛍のその姿勢は褒めるべきだが…あの血鬼術がもし空間を操るものであれば、昨晩の二の舞もあり得る。得策とは言えないな…」
難しい顔で言い淀むのは杏寿郎。
「相手がもし鬼であれば、人を喰らう存在です。貴女様に果たして喰らい付くかどうか…」
言葉を濁して言い淀むのは屋敷の主。
「つか、あんたじゃ無理やで」
そんな二人の間であっさりと淀むことなく言い切ったのは、頭一つ小さい少年だった。
杏寿郎に向けていた時とは大きく異なる、冷えた目で蛍を見ている。
「清! なんて口の利き方をして…!」
「だってこいつは鬼やろ。父ちゃんかてそう言うたやんか」
「っそら…そうであっても炎柱様の継子や! ちゃんと敬いなさい!」
「やなこった! なんでオレ達の世界を脅かしてる相手を敬わなならへんのや!」
亭主の言い分も尤もだが、少年の主張は尚も尤もである。
そこを蛍も否定する気はなかった。
「ま、まぁ…私は気にしていないので。確かに鬼ですし。だから二人共落ち着いて下さい」
「大体! こないな地味女に囮なんて務まるわけ」
「ほう今なんて?」
「な、いッ」
やんわりと場の空気を止めようとした。
しかし続く少年の主張に、幼い両肩をがしりと掴んだのは凡そ一秒後。
「じ…っ地味や言うたんや!」
「ほう」
「鬼やさかいなんや! 怖くねーぞ!」
「へえ」
「お前なんかに囮ができるか! 美人でもねーのに!」
「よぉしその面ちょっとこっちへ貸そうか少年」
どうやら少年は、興奮高まると胸の内を暴露してしまう性格らしい。