第17章 初任務《弐》
(杏寿郎の人を惹き付けるところは見た目以上に中身だけど……ってそれよりも、)
感情に左右されそうになる頭を振って、別の感情に今度は頸を捻る。
(じゃああれか。あの子の話が本当なら、杏寿郎を狙ったのは鬼殺隊とか関係なく、外見が良かったから?)
相手は女の鬼だと杏寿郎は言っていた。
異性感情として杏寿郎を選んだのなら納得もいくが、病に侵されている者は大半が女性だという。
それも巷で評判の看板娘達だ。
(じゃああれか。本来は美人女性を狙うところ、杏寿郎に狙いを定めたってことは…)
何故女である自分が選ばれなかったのか。
消去法でいけば辿り着く答えは一つだけだ。
「…やめやめ。ただの憶測だし変なこと考えるのはやめよう」
「む? どうした蛍」
「イイエナンデモ」
答えを口にするのも憚れる。
こんな時に限って鼻が利くというか目が届くというか。
目敏い杏寿郎ににっこりと笑顔を返しながら、蛍は仕切り直すようにぱんと掌を打った。
「とりあえず今夜も稲荷山に出向かないと。一刻も早く元凶の鬼を見つけ出して、病を治しましょう」
「うむ。そうだな」
「しかし昨晩は見つからへんかったのでしょう? もしかしたら他の場所に鬼が移っている可能性も…」
「それはないだろう。人が常に大勢足を運び、隠れ蓑も随所にある。稲荷山は鬼にとって都合の良い場所だ。俺より先に病にかかった者も、あの稲荷山に関わっている。まずそこから感染させられたと考えていい」
「では師範が鬼を仕留める役で、私が囮になる番ですね」
「む。」
「え。」
「貴女が?」
「…何か問題でも?」
杏寿郎は花吐き病に侵されている。
次に狙われるのは、間違いなく蛍であるはずだ。
しかし杏寿郎は眉を潜め、少年は静かに驚き、亭主は頸を捻る。
三人三様の反応に蛍も思わず問い返した。
何か問題でもあるのだろうか。