第17章 初任務《弐》
「か、簡単なことです。病にかかった人は、町の看板娘やったり評判の人やったりしたさかい」
「看板娘」
「評判」
「オレみたいなガキの間の噂ですけど」
思いもかけない着目点に、杏寿郎と蛍の目がぱちりと瞬く。
「炎柱様かて、その…男が憧れるような、人です、し」
ぽそぽそと小さくなる声に、少年独特の丸い目が羞恥で下がる。
「っせやから炎柱様が狙われるのも納得です! か、恰好良すさかい!」
「む。ありがとう!」
それも束の間。
拳を握って熱く叫ぶ清に、更に目を瞬くと杏寿郎も声を高らかに礼を告げた。
「ほ、ほんまのこと言うただけです! オレ、炎柱様のこと尊敬してて…! 前回の京都での討伐任務の話も、なんべんも聞きました!」
「それは嬉しい限りだな! ありがとう!!」
「オレもいつか炎柱様みたいな凄い人になりたいって…!」
「そうか! ならば鬼殺隊に入った際は面倒を見てやろう! 俺の継子になるといい!」
「ほんまですか!?」
「うむ!」
「はぁ…炎柱様のこととなると熱いからな…」
掛け声に掛け声を重ねる二人の姿に、半笑いで亭主は肩を竦めた。
我を忘れる程息子が憧れの人を前に高揚している姿は、親心としては微笑ましくも映る。
「そやけど言われてみれば、患者は誰も容姿端麗であったような…ふむ。まさか見た目で選別されとったとは、思いもしいひんかったな…」
「……へえ」
「!」
「あ、お構いなく」
ぼそりと続く相槌を聞くまで、傍にある気配に気付かなかった。
びくりと身を竦ませる亭主の背後で、ひらりと手を振るは微笑む蛍だ。
(確かに、杏寿郎は義勇さんや天元と違う意味で男前だもんね)
眉目秀麗な義勇や天元や無一郎が目立つ為、鬼殺隊ではあまりそこに着目はしていなかった。
しかし一歩外の世界に出れば自ずとわかる。
凛々しい眉に、洗練さの見える強い双眸。
見目良い鼻筋や口元に、類を見ない鮮やかな焔色の髪。
服の上からでもわかる、鍛え上げられた無駄のない体躯。
一つ一つ主張が強いものなのに、合わさると何故こうも塩梅よく馴染むのか。
時に悪目立ちもするが、それもまた目を惹く為。
蛍から見ても、煉獄杏寿郎という男は感情抜きに男前と思える風貌をしていた。