第17章 初任務《弐》
「呼吸で血液の巡りを遅らせてはいるが、不可解な病故に進行の妨げにはならなくてだな…ううむ。不甲斐ない…」
「あ。努力はしていたんですか」
「無論! 多少の倦怠感はあれど、鬼との対峙の妨げになる程の支障はないようだ。問題ない!」
「だから問題なくないって言ってますさっきから。それも今だけかもしれないし…大体なんで師範だけそんなに進行が早いのかがまず問題です。私は病にかかってないのに師範だけかかったっていうのも…」
「ふむ…やはりあのおんゲボッ」
「はい?」
「おゴホッ」
「なんて?」
「ゲホッ」
「…やっぱり早く解決策を見つけなきゃ」
まともに会話もできない杏寿郎の状況に、蛍は脱力気味に肩を下げた。
会話ができないだけならまだいい。
筆談でもなんでも手段は取れる。
しかし鬼殺隊にとって鬼への対抗武器は呼吸法である。
その息継ぎを妨げられれば、技の一つも繰り出せなくなる。
そこに至っては死活問題だ。
「治す方法はやっぱり師範の見た着物の女を捜すことだけど、私の前には現れなかったし…」
「ゴホッ…それが花吐き病発症の元凶となっている気はするが」
「はい。でも今夜も稲荷山に行って見つかるかどうか…」
難しい顔をする蛍の予想は、ただの予想でもなかった。
杏寿郎が花吐き病を発症した途端、ぱたりと女の気配は消え去った。
まるでやるべきことは終えたと言わんばかりに、朝方まで稲荷山を捜し回ったが妙な気配は一度も起こらなかったのだ。
見つけられなければ解決もしようがない。
「私共の情報では、男性より女性の方が病にかかる確率が高いとされてましたけど…まさか炎柱様が花吐き病にかかりはるとは」
「そうなんですね。となると鬼殺隊である杏寿郎を狙った行動の可能性も」
「そやろか」
至極真剣な面持ちで言葉を交わす亭主と蛍の間に、ぽわんと入り込むなんとも拍子抜けする声。
皆が目を向ければ、そこにははっとして口を噤む少年の姿があった。
「少年。何か思う節が?」
「えっ…あ…」
杏寿郎に促され、清の頬が緊張で赤らむ。
割り込んだことを咎めない父の様子を見るところ、口を挟むことへの許可は出たのだろう。
無言で促す杏寿郎の視線にちらちらと目を向けながら、清は恐る恐る口を開いた。