第17章 初任務《弐》
「よもぐっや、よぶっもや、だ」
「ああ炎柱様! そないに喋られては…! 花が!」
大きく口を開けて笑うものだから、げぼごぼと咽る中からはらりはらりと落ちてくる。
反り返り波打つ、特徴的な赤い花弁。
「問題ない! 少し花吐き病にかかってしまっただゲホッ」
「いや問題なくないです大問題ですから。まともに話せないくらい花を吐き続けているなんて」
「ゴホッ! ゲボ!」
「ああほら…っ」
痛々しい程の嘔吐を繰り返す杏寿郎の顔が、より一層俯き背を丸める。
堪らず部屋の奥から出てくると、広い背中を蛍の手が擦った。
ごぼり。
大きく咽た口から、ずるりと出てくる大きな花。
波打つ花弁は長く、天を仰ぐように咲いている。
花弁ではなく花そのものが杏寿郎の口から吐き出されたことに、皆息を呑んだ。
「っ…よもや、これは…」
「嘘。もう花を吐くようになったの? いくらなんでも早過」
「狐百合だな!!」
「へ?」
緊張感が張り詰める空気。
かと思いきや己が吐き出した花を手に、爛々と光る目で杏寿郎が声を上げる。
驚きや哀しみの音ではなく、子供のような歓声だ。
「見てくれ蛍! 狐百合だ! 君の袴に刺繍した、ぐろ…なんとかの花だ!」
「……グロリオサ」
「それだ、ぐろりおさ!」
笑顔で手にした花を見せてくる。
本来なら大好きなはずの杏寿郎の無邪気な笑みに、蛍は顔を渋らせた。
「ふん!」
「よもッ」
その手から花を掴み投げ捨てるのに凡そ一秒。
衝撃を受けたように捨てられた花を見る杏寿郎の額を、ぐいと蛍の掌が押し返す。
「自分の、状況を、理解してくれてます!?」
「う。」
「軽視してるのは自分じゃないですか! 危機感がない! 一日も経ってないのに花の塊を吐くなんて!」
「む。」
「早く治さないと命まで危うくなるっていうのに! そんな時に笑顔で、狐百合だ!じゃないです!!」
「す、すまん」
声を荒げて命の大切さを説教する鬼に、圧される炎柱。
その様に、親と子は目を丸くした。
なんとも珍妙な光景か。