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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 炎を象った鍔を持つ、炎柱の名を馳せるような日輪刀。
 昂然(こうぜん)たる風貌にも見える、揺らぐ炎を印象付ける羽織。


「師範」

「うん?」

「日差しはここまで届かないから、そんなに過敏にならなくても大丈夫です。ご主人も気にしないで下さい」


 杏寿郎の姿形一つ一つに湧き上がっていた清の心を急降下させたのは、更に奥の部屋から届く女の声だった。

 慣れた様子で師範と炎柱を呼ぶ女は、彼の継子であり、そして人成らざる者。
 清も父に何度も忠告を受けていた。

 あれは鬼である。
 故に重々注意するように、と。


「蛍。腕の調子は」

「もうほとんど治りました。大丈夫です」

「ならば完治ではないな。それは大丈夫とは言わない」

「え…ぃゃ…はい。確かに完治ではないけれど、体を動かすのに支障はないし…」

「言っただろう。己の体を軽視するなと」

「…その言葉そっくりそのまま師範にお返ししたいのですが」

「む」


 清達に向ける声はあんなにも豪快であったのに、継子の鬼となると杏寿郎の声は張りを抑える。
 交わす言葉からも、互いを理解している様は清にも感じ取れた。

 だから尚の事、唇は不満を結ぶ。

 薄い明かりが灯された奥の部屋には袴姿の女が一人。
 一体どんな風貌かと思いきや、御伽噺(おとぎばなし)に出てくる鬼のような角もなければ牙もない。
 血のように赤く縦に割れた瞳には身震いがしたが、それだけだ。
 鬼殺隊の象徴である隊服にも身を包んでいないのに、何故炎柱の継子などやれるのだろうか。


「炎柱様。御膳が冷めへんうちに召し上がってください」

「うむ。ありがたく頂くとしよう!」


 不満は持ちつつも、それで炎柱への尊敬が陰る訳ではない。
 本来の仕事である食事を、清は零さないようにと慎重に杏寿郎の前に運んだ。
 強い眼力を持ちながら、運ばれた御膳を見る杏寿郎の顔は爽快に笑う。
 ぱちんと両手を合わせ頭を下げると、丁寧な仕草で豪快に大きく開いた口へと米の塊を運んだ。


「うまい! うまい! うまゲボッ!」

「炎柱さま!?」

「わ…!」

「ほら」


 しかし食事は二口まで。
 三口の米の塊は、笑顔で吐き出した花と共に虚しく畳に散った。

 慌てるは屋敷の主と清のみで、蛍はそれ見ろと言わんばかりの目で溜息を一つ。

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