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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 トトト、と廊下を小走りに走る足。
 息切れではない別の衝動で胸を弾ませながら、少年は屋敷の縁側を一人走っていた。
 両手に持った御膳の盛り付けが崩れないようにと、細心の注意を払いながらそれでも足は早く早くと急かす。

 ようやく指定された部屋が見えて来た。
 乱れた呼吸を落ち着かせようと、一度足を止めて整える。
 ふぅー、と緊張気味に最後の呼吸を零して、少年は御膳を置いて部屋の襖に手をかけた。


「しっ失礼します!」


 勢い余ってからりと開かれた襖に、部屋に座していた男が腕組みをしたまま顔を向ける。
 この屋敷では見たことがない、金と朱に染まる稲穂のような髪。
 強い意志を思わせる凛々しい眉に、何をも見透かすような金輪の双眸。

 彼こそが、少年が一目でもと待ち望んだ相手だ。


「お食事をお持ちしました!」

「うむ! ありがとう!」


 緊張の所為か声を張り上げるように告げる少年に、部屋で待機していた男──煉獄杏寿郎もまた爽快な声を返した。


「清(きよし)、何しようやす! 一言返事を貰うてから襖は開けい言うたやろ…ッ」

「あ…っ」

「そう叱るな亭主! 次から気を付けてくれるといい! 俺は構わないが、俺の継子にはこと問題だ!」

「ええはい、存じ上げております」


 「炎柱様が戻られた」という知らせを聞いたのはつい先程のこと。
 先に一度訪れた際は玄関にも踏み込まず荷物だけを届けていった為、少年の目には一度も触れられなかった。
 その為、今度こそはと期待を胸に膨らませて足を運んだのだ。

 此処は鬼殺隊の隊士達が英気を養う為に利用する藤屋敷。
 少年は、其処に住まう一族の一人だった。

 屋敷の亭主──清の父に当たる男が、杏寿郎の言葉に深々と頭を下げる。
 この屋敷では大黒柱となる男が、年下であろう男に頭を下げているのだ。
 それだけで鬼殺隊の柱と成る者の存在を改めて目の当たりにしているようで、清は興奮で胸を躍らせた。

 鬼に身内を殺される痛みは知らないが、その鬼を世から滅する為に命を賭して戦う彼らの妙妙たる様は、幼い時から聞かされている。
 それは少年の幼心に、強い憧れと希望を魅せた。

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