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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「鬼の気配が消えた。どうやら取り逃がしたらしい」

「え…鬼、いたの?」

「白い着物の女の鬼だ。それを追って炎虎を放った」


 口調も声量も落ち着きあるものだったが、みしりと杏寿郎の額に血管が浮く。
 あの女は、明らかに炎虎で蛍を殺そうとした。
 己の手は汚さずに仲間同士での自滅を謀ったのだ。


「蛍は先に山を下りなさい。俺は鬼を追う」

「っそんな。私も行く、よ」

「駄目だ。もし空間を歪ます血鬼術であれば、単体で討ちに行った方がいい」

「白い何かなら、私も見た…! 鬼を見つけることなら、できるから…っ」

「助ける為か?」

「…え」

「俺はあの鬼を必ず鬼殺する」


 蛍から手を放し、身を起こす。
 鋭い双眸は何をも受け付けない強い炎を燃やしていた。

 己の手で蛍を殺めさせようとした鬼だ。
 そこに向ける情など欠片もない。


「手をかけることに迷いがあるなら来るな」


 更に、万一またこの手で蛍に牙を剥くことでもあれば。
 危険は冒せないと、杏寿郎は静かな声で蛍を圧した。

 それでもと、失った方の二の腕を押さえて、蛍もまた立ち上がろうとした。


「…っ?」

「杏寿郎?」


 異変を見たのはその時だ。
 強い炎を宿していた杏寿郎の瞳が揺らぐ。
 無一文字に唇を結び、己の喉へと手をかけた。


「…ぐ、」


 ごほりと、喉仏が上下する。
 眉をきつく潜め微かに呻った杏寿郎の口から、はらはらと舞ったのは。


「…花、びら?」


 鮮血のように、真っ赤に染まる花だった。

















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