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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「蛍…ッ!!」


 消えた女の気配はない。
 蛍と空間が繋がった所為か、先程まで感じていた異様な空気は消えていた。

 炎虎により喰らい尽くされたかのように見えた蛍は、間一髪逃れていた。
 地面に擦れるようにして転がり倒れている。
 咄嗟に駆け寄りその身を抱き起こして、杏寿郎の目が尚見開く。

 ぼたぼたと大量に零れ落ちる真っ赤な鮮血。
 蛍の片手が、肘から先を失くしていた。
 焼け焦げたような黒い傷跡を見ればわかる。
 頸を取られることこそ間逃れたが、炎虎に腕を喰われたのだ。


「…きょ、じゅろ」

「っ」


 息を呑む杏寿郎の目に、薄らと開けた蛍の瞳が重なる。


「今の、杏寿郎の、炎虎?」

「…それは」

「私、避けられた、よ。初めて」


 顔を地面に擦り付けた跡もものともせず、蛍は笑った。
 失った腕の所為か、ぎこちない笑顔で。


「すごい?」


 探知の為に影鬼を広げていたお陰だった。
 咄嗟に反応できた異能により己の足場を崩し、間一髪急所を狙われることを避けたのだ。
 代わりに腕を持っていかれてしまったが、頸の代わりと思えば軽いもの。
 炎の呼吸技で頸を断ち切られれば、鬼の再生力も虚しく蛍の命は呆気なく散る。


「…すまない。俺の失態だ」


 蛍の力無き笑顔を前にして、杏寿郎は歯を食い縛った。
 抱き寄せようとした衝動を抑えると、懐紙(かいし)の代わりである白生地の布を取り出す。
 真白なそれを、蛍の体を支えたまま傷口に押し当てた。


「止血するぞ。我慢してくれ」

「うっ…大丈夫、だよ…これくらい。放ってても、すぐ治」

「己の体を軽視するな! いくら君が鬼でも、だからと言って粗雑に扱っていいことにはならない!」

「…ご、めん…」

「っ…いや、俺の責任だと言うのに。声を荒げてすまない」


 深い息を零す。
 一度瞑り次に開いた金環の双眸は、既にいつもの冷静さを取り戻していた。 

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