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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



「やっぱりこの中に…」


 いるのではないか。
 そう思い直しトンネルの中へと視線を戻す。


 ち りん


 ぱっと顔を向き直したその目に、白い何かが映り込んだ。
 正確には視界の隅に。
 トンネルの中ではなく、鳥居と鳥居の隙間を何かが駆けたような気がしたのだ。


「っ」


 咄嗟に目で追うも、やはり何も見当たらない。
 杏寿郎と覗いた時のように、変わらない闇が広がっているだけだ。


「なんなの…もう」


 出るなら出る、出ないなら出ないで欲しい。
 ドキドキと緊張で波打つ心臓に、そう詰ってやりたくなった。


(あ。そうだ、それなら)


 ふと思い至ったのは、落ち着かせようと俯き胸に手を当てた時。闇と同化するように黒い己の影を見下ろした際だ。
 範囲は限られるが、影鬼は命あるものを探知して捕えることができる。
 限界まで広げていれば、先程から視線を攫う何かを見つけられるかもしれない。


「ちょっと怖いけど…」


 捜し人である杏寿郎が見つかれば願ったりだと、深呼吸をして脈打つ心臓を落ち着かせる。
 集中する為に目を瞑れば、やがて足元の影が円形に膨らみ始めた。

 闇より深い、真っ黒な闇。
 それが両手を伸ばすかのように、ずず、と蛍の足元から膨張していく。
 渦潮のように円形に伸びていくそれは、無数の人の手を成していた。

 無音の世界で影が這う音だけが忍び寄る。


(何も出てきませんように…何も…)


 捜し人は求めているが、それ以外ならば正直願い下げだ。
 行動に起こしながらも相反する思考で願う蛍の耳に、


 ──しゃらん


 儚げな音が掠った。

 は、と両目を開く。
 くすりと笑う女の声は、すぐ後ろから。


「!」


 振り返り見開いた蛍の両目が捉えたのは、笑う女の姿ではなかった。


 ゴウ…ッ!


 巨大な炎の体を逆立てて迫りくる一匹の虎。
 大きな牙を剥き呻るそれが、すぐ目の前に迫っていた。


「──蛍!!」


 捜し人の声を見つけた。
 しかしその時には既に、炎虎の牙は目の前の鬼を喰らい尽くさんと突っ込んでいた。


「く…!」


 蛍ができたことは咄嗟に両腕を顔前で盾とすることだけ。
 どうん!と地響きにも似た轟音を立てて、獣は鬼を飲み込んだ。

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