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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 五ノ型〝炎虎〟

 鳥居を吹き飛ばさんとする虎の巨体が、女へと向けて突進する。
 そこに逃げ遂せる隙間などない。
 だと言うのに女は顔を隠していた袖を下げると大きく口を歪ませ嗤った。


 ゴウ…ッ!


 巨大な虎の牙が女を喰らう。
 しかし炎に巻かれた女の姿は幻覚のように消え失せ、獲物を失った獣はその先へと駆けた。

 技主である杏寿郎には、炎虎の視線の先がよく見えた。
 暗く何処までも続く闇の先。
 そのトンネルの先で見つけた人影がひとつ。

 振り返ったのは。


「──蛍!!」


 無防備に立つ、かの鬼だった。






























「…何これなんの苛め…」


 突如として杏寿郎の姿を見失った中。蛍は一人、何処までも続く鳥居のトンネルの中にいた。

 進めど退けど、太陽のように明るい猩々緋色は見つからない。
 何かと悪戯心を持つ天元ならまだしも、杏寿郎がこの場でわざと姿を隠すなど考え難い。
 鍛錬中であれば、修行だと言って蛍の身を茨の道に放り出すことはよくあった。
 しかし此処は実戦場だ。


「まさか鬼の仕業…? でもそんな気配しないし…だとしたら別のいやいやそれはない」


 黙っていれば無音の世界がより周りを不気味に見せる。
 木々のざわめき、虫の歌声、何一つないのだ。
 ぽそぽそと憶測を口にしながら、すぐに蛍は自分で自分の言葉を否定した。

 鬼よりも鬼以外のものが出る方が余程恐ろしい。

 頸を横に振ると、蛍は恐る恐る鳥居の隙間を今一度覗き込んだ。
 トンネルの中にいないのなら外にいるのかもしれない。


「き…きょうじゅろー…」


 普段よりも拙(つたな)い呼び掛けになってしまうのは臆する故か。
 トンネルの外には覆い尽くす闇のみ。
 真っ黒に見える木々は被さるように頭を擡げ、鳥居をぐるりと取り囲んでいる。

 弱々しく響く蛍の声はすぐに闇へと吸い込まれ消えていった。


「…外にはいないな。うん」


 可能性は無きにしも非ず。それでも外へ出るのは躊躇してしまう。
 この場に杏寿郎がいれば「鍛え方が足りない!」と笑顔で叱咤されただろう。

 それでも怖いものは怖いのだ。
 理屈でどうこうできるなら、とっくに克服している。

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