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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 鳥居のトンネルの中、右も左も女の姿はない。
 しかし女が現れてからがらりと変わった異様な空気は、依然そのままだ。

 しゃらん、と儚い音が鳴る。


「 こ の 子 の 七 つ の お 祝 い に
       お 札 を 納 め に 参 り ま す 」


 這うような女の歌声もする。
 声がするならば姿もあるはずだ。
 その場から動くことなく、杏寿郎の鋭い眼孔だけが音を追った。


「 行 き は よ い よ い
       帰 り
           は

            こ


              わ




             い










 高い女の声が、途端に野太く低く変わる。
 すぐ耳元で這う息遣いに、かちりと真っ黒な歯が杏寿郎の横で笑った。

 刹那、日輪刀が下から突き上げるように払い上げる。
 女の姿を確認する前に起こす剣技に、声の主が断ち斬られた。


「む…!」


 確かに視界の隅に把握したであろう、黒い歯の持ち主は其処にはいない。
 円状に描く炎だけが、暗闇のトンネルで舞い上がった。


「随分と逃げ足が速いものだ。余程臆病な鬼と見る!」


 くすりくすりと舞う声が、杏寿郎の言葉にぴたりと止まる。
 その言葉に挑発されたのか否か、最初のように女の姿が再びトンネルの闇の奥から現れた。
 再びその顔を、片袖で隠したままだ。


(逃げ足と言うより、この空間自体を操る鬼なのかもしれない。となれば空間ごと薙ぎ払えば)


 姿を見せても再びこの手をすり抜ける可能性がある。
 その隙さえ逃さない為に、杏寿郎の手が日輪刀を握り直した。
 赤い刃が、暗闇で灯火のように光を放つ。


「炎の呼吸──伍ノ型、」


 音もなく杏寿郎の唇から揺らぎ舞う熱い空気。
 片足を下げ大きく振り被った刃から、一層強い炎が舞い上がる。
 荒れ狂う炎が忽ちに姿を為したのは、一匹の巨大な虎だ。

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