第17章 初任務《弐》
「杏寿郎! 待って!」
咄嗟に先を行く彼を呼び止めて、種を拾い上げる。
ふわりと空気に溶ける様に薄まる色は、果たして何処へ消えゆくのか。
「もしかしたらこの色の先に何か──…?」
後を追うように顔を上げて、蛍はそれに気付いた。
延々と続くような朱い鳥居の道。
「…杏寿郎?」
先程まで在った燃えるような男の姿が、消えていた。
(え、嘘っ)
足を止めた蛍に気付かず、先に行ってしまったのか。慌てて後を追い走る。
「杏寿郎…っ」
しかし走れど走れど、延々と続くような鳥居のトンネルが其処にあるだけだ。
灯りを手にした杏寿郎の姿は何処にもない。
「杏寿郎!」
どんどん膨れ上がる不安と共に、声も大きさを増す。
口元に手を当てて呼ぶも、目を醒ますような張った彼の声は聞こえない。
不気味な程に静まり返った静寂だけが、蛍の周りを包んでいた。
「…嘘…」
大して走った訳でもないのに、はぁ、と息が乱れた。
光もない闇の中。
取り残されたのは、蛍ただ独り。
「──?」
名を呼ばれたような気がした。
はたと足を止め振り返れば、寄り添うように背中にくっ付いて歩いていたはずの蛍の姿がない。
「蛍! 道草を食っていると余計に戻るのが遅くなるぞ!」
また何か変なものを見たとでも言うだろうか。
後方に向けて呼びかけるも「待って」と焦り気味に追いかけてくる声はない。
「蛍!! 聞こえないのか!?」
更に声を張り上げる。
しかしやはり馴染んだ彼女の声はなく、同時にその気配さえ消えていることに気付いた。
疑問を浮かべていた表情が瞬く間に消え去る。
見開く双眸はそのままに、鋭さを増して杏寿郎は辺りを見渡した。
蛍が消えた。
それも突如として。
(鬼の仕業か?)
未だ見つからぬ鬼の異能なのか。
片手に灯りを手にしたまま、空いた手でそっと腰の日輪刀に触れる。
──しゃらん、
ゆらりと、温かい夜風が杏寿郎の背中を撫で上げた。
耳にしたのは、儚げな謎の音。