第17章 初任務《弐》
「っ!」
「? どうした」
流れて見えた景色に何かを見た気がした。
暗闇の中からじっと見てくる顔のようなものが。
思わず振り返り闇を凝視する蛍に、杏寿郎の足も止まる。
「今、そこに何か…見えた気が」
「ここか?」
二人して鳥居と鳥居の隙間を覗く。
ずいと顔を寄せる杏寿郎の背後から覗くようにして、蛍も恐る恐ると続く。
しかし二人の視界の先は何処までも続く闇が広がっているだけで、何もない。
「鬼の気配だったか?」
「どうだろ…見えたものもぼやっとした白いもので」
「ふむ。ならば気の所為だろう。恐怖を煽る心が幻覚を見せたのだろうな!」
「杏寿郎は何も見てない?」
「見てない!」
「そっか。なら、そうだね。…うん」
「よもや蛍は霊感持ちだったりするのか?」
「まさか」
「ならば問題ないな! 先を行くぞ」
「あ、うん」
再び先へと足を進める杏寿郎を、慌てて追う。
こん、こん、と。蛍の耳に音が転がり落ちたのは、その時だ。
こん、こん、こここ。
何かを転がすような音。
振り返った蛍の足元に、ころころと何処からともなく転がってきたのは、小さな丸いもの。
(何?)
一瞬体を硬直させるも、足元にこつんとぶつかったそれは見たことがあるものだった。
正しくは、詳しい形などは知らないが。恐らくそれだろうとわかるもの。
「…種?」
植物か花か、何かの種のようなものだった。
何処から転がってきたのか、辺りを見渡すも人影などはやはりない。
しかし種が独りでに転がり込んでくることなどありはしない。
鳥か獣か、何か生き物の仕業だろうか。
日の暮れた時間帯に鳥など飛んではいないし、傍に鎹鴉がいる訳でもない。
気配を探ってみるものの、獣の姿も見つからない。
(なんだか気味悪いなぁ)
上手くは言えないが、じっと何処からか見られているような。そんな拭いきれない張り付くような感覚に、頸を竦める。
足元に転がってきた種には触れまいとしたが、今一度見下ろした蛍の目が瞬いた。
ふわりと種の側面を揺らいで消えていく。
見覚えのある色。
「あっ」
それこそ、昼間垣間見たあの花に似た色だった。