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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第17章 初任務《弐》



 一寸先は闇。
 二人の草履の足音以外、音を成すものはない。
 連なる鳥居の柱に刻まれた夥しい文字さえ、夜となると不気味に映る。

 入口の行灯から貰った火を灯りとして進む。
 そんな杏寿郎の背に寄り添うようにして、蛍も続いた。


「やはり怖いのだな!」

「う。…杏寿郎は怖くないの?」

「出る時は出る! 出ない時は出ない! そういうものだ!」

「あ、信じてない訳じゃないんだね…」


 ふと炎柱邸で行った怪談話を思い出す。
 行冥の突然の登場に悲鳴を上げたのは蛍と蜜璃のみで、杏寿郎は怖がる素振りを見せていなかった。


「浄土も地獄も、無いとも言い切れまい。俺達が知らないだけで、世界は想像以上に広いものだ」

「そういうものなのかな…」

「この千本鳥居もそうだぞ。本来この鳥居の意味は、俺達人の住まう現世から神や仏が住まう幽界(ゆうかい)へと導く通り道と」

「あ、今そういう話やめよう。怖いから」

「むぅ。心の鍛え具合が足りないな! 蛍!」

「こういうのは性格みたいなもので、鍛錬関係ないと思います」

「しかしそれでは急に鬼が出ても対処できないぞ!」

「寧ろさっさと出て欲しいです! そしてさっさと下りる!」


 競い合うように声を張り合う。
 杏寿郎は常時として、十中八九蛍はその身に感じる恐怖を薄れさせる為に声を張り上げていた。

 鬼退治よりも帰還優先。
 誰もいない鳥居だらけの夜の山奥というのは、例え恐怖がなくとも居心地が良いものではない。


「いいから急ごう。此処にもあの色は見つからないし」

「色以外に注意を向けるのも大切なことだぞ。血の臭いはしないか。妙な音は聴こえないか。知らぬ気配はしないか」

「あ、今そういう忠告もやめよう。なんか別のものが見つかりそうで怖いから」


 鳥居のトンネルは何処までも続く。
 連なり正面から見える様はトンネルだが、実際に鳥居と鳥居の間には隙間がある。
 人一人、体を横にすれば通れそうな程の僅かな隙間。
 体を横にしなければ通れないものだ。


 なのにそこに在ったのは、こちらを覗く白い顔。

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