第8章 空白の時間
私の言った通りに腕の力を強めてギュッとして、他は?とまた聞かれる。
『他はね…なんだろう、もうこれで幸せすぎて、分かんないや』
「!………そ、うか…すまない蝶……結局俺、お前に頼ってばっかりだよ」
『ううん、中也さんは私の事見捨てないでいてくれるでしょ。…私ね、中也さんに攫われるのが好きなんだ。だからね、その為に中也さん困らせて、勝手に私の事を攫ってっちゃうの待ってるの』
へへ、と微笑みながらそう言うと、中也さんから馬鹿が、と軽く暴言が飛んでくる。
しかしそれさえ声に勢いがなくって、私も素直に反論出来なかった。
「…大丈夫だ、望み通り、行ってやるから……!そうだ、そんなお前に朗報がある」
『朗報…?』
コテ、と首を傾げる私に中也さんは嬉しそうな顔をして……かと思えばすぐに苦虫を噛み潰したような顔になって、舌打ちをしながら話し始める。
え、待って、今の流れ何何があったの中也さん。
「首領が…探偵社とな。……つうかだざ…………あの青鯖野郎と手を組む算段を立ててる」
『…探偵社、と……?…本当っ?本当なの?』
聞こえた言葉に驚きが隠せなくて聞き返すも、中也さんが本気で嫌そうな顔をしつつも私の頭を撫でて呆れたように笑った事で、それが本当なのだと認識する。
もう、どっちの味方もしていいんだ。
もう、我慢しなくっていいんだ…どっちとも戦わなくて、いいんだ。
「元々はお前の指輪に内蔵した発信機を確実に安全に使う為に提案したことだったが、首領は元からその可能性は考えていたらしくてな。敵対したまんまじゃどっかの誰かが心を痛め続けちまうとかでよ」
まあお陰様で探偵社に土下座でもしに行こうかと思ってたのを引き止めてもらえたわけだが
前半の内容だけでも驚きだったのに、最後にそんな言葉を付け足されて、えっと中也さんを見つめる。
『中也さんが……探偵社に?………土下座?』
「あ?お前を迎えに行くためなら仕方ねえだろ、何間抜けな顔してんだよ」
『い、いや、なんでそんな当然のように土下座とか…えっ、中也さんが土下座!?そんな事させたら私関係者全員尋問して焼くよ!!?』
何言ってんだお前は!?とりあえず落ち着け!!
と中也さんに慌てられて、少ししてからようやく頭が整理できた。
『……中也さんが土下座とか、あっちゃダメなんだから』
「何でうちの蝶は……」
