第8章 空白の時間
「さっき散々自分から印付けに来たじゃねえか」
『む、無理ッ…それとこれとは話が違っ!!』
ニヤッと笑ってから中也さんが顔を離してソファの背もたれに凭れてしまう。
「じゃあ仕方ねえけどお預けだな、仕方ねえけど」
『え、っ…な、んで……!!違ッ…私何言って…』
「俺はしてもいいんだがな?たまにはお前からしてもらうのも悪くねえかなと思ってよ…どうしても恥ずかしいんなら無理にとは言わねえぜ」
カアアアッと顔に熱が集中して、中也さんからもらえるものだと思っていた甘いキスまで焦らされたような気がして、どうしようもなく切なくなった。
私、ずっと切ないのに耐えてきたのに…ずっとずっと、我慢してきたのに…
「……!…」
恐る恐る、ゆっくりと中也さんに口付けて、震える手で中也さんのシャツを掴む。
するとよしよしと頭を撫でて、ギュウッと抱き寄せられる。
それを皮切りに息継ぎをして、角度を変えてまたキスをする。
中也さんがしてくれてたみたいに、何度も何度も…しかしやはりそこから先は恥ずかしくて出来なくて、唇を離して目を薄く開く。
しかし中也さんはそれすらも見つめていたのか、薄く微笑んでまた頭を撫でて、口を開いた。
「しょうがねぇ…舌出しといてやるから、好きなようにやってみろ」
『ッ、好きなようにって…っ』
舌を出したままそれに絡めろという、軽く命令のようにも思えるそれに、一層恥ずかしくなった。
中也さんはどうしてか、やはりいつものように余裕そうで、それが余計に私をドキドキさせる。
命令でもなんでも、それでも結局逆らえなくて、おずおずと自分の舌を中也さんのに添わせる。
それだけで舌先がビリビリするように痺れるほどの刺激が伝わって、すぐに自身の舌を引っ込めてしまった。
けれど、それでも中也さんはやめさせてはくれなくて、私からするのを待っているといった様子だった。
『……ん、ッぁ…ん…………』
「ッ、……!?」
もう一回だけ頑張ってと自分に言い聞かせて、バクバクする心臓を隠すように舌を添わせ……中也さんの舌ごと、私の口の中に包み込むようにして、再び唇を合わせた。
流石に驚いたのか中也さんの手に力が入って、ピクッと指が動いているのが分かる。
そして舌同士を絡め合わせるようにヌルリと下で円を描いた時。
『…んッ!?』
中也さんの舌が動き始めた。
